わたしの好きな人はわたしの姉をじっと見つめていた。
安い恋愛ドラマにありそうなベタな展開だったが、いざ自分がその一角に入るとなるとなんともいえない感情が渦巻いているのである。恋愛ドラマなんて糞食らえなんて思っていたわたしがその渦中にはまっている。
彼が彼女を好きなのは知っていた、だってわたしは彼を見ていたから。フレーメンの音楽隊のように連なってる想像したらなんと気持ち悪いのだろうか。
だが彼女が彼を恋愛感情として好きではないことも知っている。彼女はわたしの姉だから。なんとも皮肉かな、彼女の感情は私の感情のように解っていた。不毛な恋愛を続けている彼にザマアミロとあざ笑っているわたしはなんとも性格悪いのだろうが、同じ不毛な恋愛をしているわたしもきっとザマアミロと誰かに思われているのだろう。


「スニベルスのこと、そんなに好きなんだ?」
「・・・ジェームズ」
「あいつのどこがいいのか僕にはさっぱり」
「そういう貴方もよくもまぁ姉に好かれたいと思うよね、その性格で」


ニヒルな笑みを浮かべるのは同じ寮の、不毛じゃない恋をしているわたしとは違う男だった。頭の回転が速く周りの空気と雰囲気を察知できるこの男は誰よりも早くわたしが彼を好きということを察した。それは大分前の話であるが。
この男もまた姉が好きなのだ。それはもうわたしや彼と違い、オープンな感情で姉に想いを伝え続けている、鬱陶しいくらいに。そんなこと考えもしないし、出来もしないわたしにとってこの男は私の人間関係フォルダの頭のおかしい分類にカテゴリ化されてある。ちなみに要注意人物。


「告白する気は相変わらずないんだ?」
「そうね」
「不毛だ」
「解ってる」


わたしと姉は双子であるが性格は真反対だった。明朗活発な姉に対してわたしは内気で陰気。成績も中の上くらい。たった一つ似ているのはこの緑色のアーモンド型の眼だけ。どう考えても軍配は姉の方が有利。わたしは姉のことは嫌いではない、寧ろ好きだ。明るくて優しい、頭もいい、好きだ、けど好きな人に好かれている姉を100%大好きであると明言するのはあまりに難しかった。


「ねぇ吽」
「なに?」
「取引しない?」
「・・・取引?」
「そ、お互い利益のある取引」
「貴方からの提案なんて怖すぎる」
「そんなぁ、簡単さ。僕はリリーがほしい、君はスニベルスがほしい。だからお互いが互いの欲しいものを得るために共同戦線しようじゃないか、って話さ」
「・・・どういうこと?」
「君はリリーに僕を勧める、もちろん良いように。そして僕はリリーに君がスニベルスのことを好きなことを伝える。優しいリリーのことだ、妹の恋は応援する。そうだろう?」
「・・・どうでしょうね」
「するに決まってるさ!何と言ってもあのリリーだからね!僕は今以上にリリーと距離を近づくし、スニベルスは自分の好きな子から別の子を推される、そんなことなったら諦める他ないね」


彼の中で人物の関係図はもう出来上がっているのだろう。漫画の1ページ目にあるような明確な関係図が。
彼が誰かと手を取ってこの恋愛を成就しようとするなんて思ってもみなかった。私の手なんかとらなくても彼はこの恋愛を自分のものに出来たはずだ。出来るような人間だからだ。なのに何故私の手を取ろうとするのか。私の恋愛に首を突っ込んで掻き回そうとしているのか、彼の考えていることはやっぱり解らない。口元が上に上がっている表情を見るとなんとなく負けたくない気がした。私だって腐ってもグリフィンドール生。


「この話を私がリリーに話すとは思わないの?貴方が私を使ってリリーに近寄ろうとしてる、なんて言ったら一瞬にしてお怒りになるよ、私の姉は」
「それはないね」
「どうして?」
「それは君の利益にならないからさ、吽。ずっと遠くから見つめるだけだった現状を打開するには僕と協力する他手段はないからね。まぁ君が今まで通りでもいいって言うなら話は別だけど」


嗚呼、やっぱりこの男は敵に回すようは男ではない。私はグリフィンドール生になりきれなかった。組み分け帽子はきっと間違った選択をしたのだ。ヘラヘラ笑っていても、眼鏡の奥にある目は全く笑ってなんかいなかった。私なんかがこの男に勝てるわけなかった。私は半ば諦めたような気持ちで、わかったわ、と呟いた。


「あなた、スリザリンに入った方がよかったんじゃない?」
「やだな、僕は人より少しズル賢いだけだよ」
「それを狡猾っていうのよ」



ーーー
ーー





「・・・吽、・・・・・・吽!」
「ん、え・・・スネイプ?」
「スネイプ・・・?おい、どうしたんだ突然ぼーっとしてたが意識飛んでたのか?」
「・・・大きくなったね?」
「・・・・・・頭打ったのか?結婚式だぞ、しっかりしろ」
「ケッコンシキ?」


古い記憶が呼び覚まされているようだった、否、誰かの古い記憶の渦に飲み込まれているようだった。
顔を上げると綺麗なドレスを着た赤髮の、あれはきっと私の姉。そして顔を上げた瞬間目のあった眼鏡の男。ニヒルな笑みを浮かべているが、あの頃からなにも変わっていない。


「まさかあいつらが結婚するとはな」
「・・・全くだわ、リリーも変な男に捕まったものね」
「同感だ」
「セブルス」
「なんだ」
「・・・なんでもない」


こめかみを軽く押す。そうだ今はあれから数年たった現実だった。あれから幾日も経たないうちに付き合い始めたリリーとジェームズ。そして卒業と同時に結婚。そんな私はこの隣の男と姉のお付き合いから少し遅れてお付き合い始めた。はずだった。ちらりと左上に視線を向けてみた。みんなに祝福される私の姉を慈しみ深い表情で眺める彼の眼は私の記憶にあるはあの頃と変わっていなかった。


「ねぇセブルス」
「・・・なんだ」
「別れましょうか」
「・・・は?何を言っている」
「リリーはもうジェームズのもの、貴方の不毛な恋愛も終わり。そして私の不毛な恋愛も終わりにしたいの」
「冗談は程々にしろ」
「人と関係をほとんど持たない貴方が何故私の目を見て話せたのか。それは私のこの目が緑色だからでしょう?リリーと同じ目と会話して私の奥にリリーを写してたのでしょう?」
「まだそんなこと言ってるのか、吽。その定期的に我輩を疑ってくるのは発作のようなものなのか?」


フン、と鼻で笑った彼を見たと思ったら、目の前に広がるのは薬品の匂い。あぁそういえば彼は今年から魔法薬学の教授になったのだった。


「幼い頃はリリーのことが好きだった、それは認める。だが5年生の時リリーが君を見るよう言ったんだ。きっと吽の方が我輩の気持ちを理解してくれると」
「・・・、」
「初めてしっかり吽と向き合ってみたが、リリーより素敵な女性だった。あと、その眼のことだが同じことをリリーに言われんだ」
「・・・リリーに?」
「“私の眼を通して吽を見るのはやめなさい”と」
「そんな、」
「いい加減疑うのはやめていただきたいものだな」


またニヤリと笑ったジェームズの顔が彼の肩越しに見えた。彼はここまで予測していたのか。やっぱり彼を敵に回さなくてよかった。いや待って、貴方がリリーとここまでこれたのは少なからず、私のおかげでもあるでしょう?だってジェームズのことを目の敵にしてたリリーに私が推したのだもの。貴方がそういうなら、って心を開くきっかけを作ってあげたって胸張って言えるわ。耳が少し赤いセブルスがなんとなく信じられなくて私の頭はそんな違うことばかり考えていた。これこそ幻想なのか、夢なのか。魔法なのか。


「リリーじゃない、君がいいんだ」


この何年間、変わってなかったのは私だけだったのかもしれない。みんな前に進んでいるというのに。
ふ、ともう一つの視線が私に向けられているのがわかった。それは彼の隣にいる姉からだった。目を細めて優しそうに笑みを浮かべる姉からは汚い感情は感じられなかった。
そうか、私がリリーの感情を解ると同じように、リリーも私の感情を解っていたのか。あゝほんとこの夫婦は食えない。
ごめんね、セブルス。
私は私の得た幸せを逃すわけにはいかないのだ。唯一事情を知らないであろう少し耳の赤い彼に心の中で謝罪の言葉を呟いた。



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