chocolates




仕事が忙しかったと言えばただの傲慢かもしれないが、本当に忙しかった。吽はただでさえ溜まっていた書類の処理があったのに、突然の他校からの来校依頼、その手続きを終えたと思いきやクディッチの練習中にレイブンクローの選手が大怪我をしたらしく(しかも大勢)人手が足りないとマダム・ポンフリーに駆り出されていた。
医務室から白目を剥くぐらい疲労感丸出しの吽に声をかけたのはスプラウト先生であった、嫌な予感がしたが無下にできるわけもなく話を聞くと、明日授業で使う薬草を運ぶのを手伝ってほしいとのことであった。秘書兼お手伝いの吽は小さく消え失せそうな声で「・・・OK」と答えるしかなかった。


「あ、吽先生!」


そんなスプライト先生のお手伝いも終わって、吽は屍のように中庭にあるベンチに座っていた。部屋に帰るのもめんどくさい。そう日本語で呟いたのも気づかないくらいに。
仕事は嫌ではないけど、容量が良い方ではないから忙しいと頭と体がパンクしそうになってしまう。 吽はふと視線を下に落とすと土だらけになった指先があった。なんとも言えない気持ちになってもう一度ため息をついた時、声をかけて来たのは仲のいい生徒のハーマイオニーであった。


「ハーマイオニー?どうしたの、もうそろそろ寮に戻らなきゃいけない時間でしょ?」
「ずっと探してたんだけど、なかなか見つからなくて・・・これ渡したかったの」
「これは・・・?」
「マグルのチョコレートよ!私このチョコレートすっごい好きで、この間ママが沢山送ってくれたからおすそ分けしよう思って。吽先生チョコレート好きだった、よね?」
「うん、チョコレート大好きよ」
「すっごい疲れた顔してるし・・・この間の教科書のお礼も出来てないなって思って、ごめんなさい、こんな物しかあげれなくって」
「・・・ううん、ありがとうハーマイオニー。すっごい嬉しい」
「ほんと?」
「ほんと。後でゆっくり食べさせてもらうね。さ、そろそろ寮に帰りましょう?また週明けたら私のお部屋でお茶しましょうね」
「やった、約束よ!」


じゃあ、と手を振りかけていく後ろ姿を見送り、吽の手のひらに乗るのは銀色に包まれた粒が3つ。可愛らしい包装紙だ。そんなに疲れた顔をしているだろうか、生徒に心配されてしまったら教師、ではないけど職員としてダメだがそれでも嬉しかったのは確かであった。戻らないと、とつぶやき、吽はすこし軽くなった足でベンチから立ち上がり、自室への道を歩いた。


「おい」
「ん?あ、ドラコ。久しぶり、どうしたのこんなのところで」
「ん」
「どうしたの?」
「やるっつてんだよ!」
「これ・・・並んでも買えないって今話題のチョコレートじゃない!どうしたの!」
「父上がそこの会社と知り合いなんだ、母上にお前がチョコレート好きと話したら持っていけと言われたんだ」
「ルシウス先輩・・・ナルシッサ・・・」
「ったく、俺をメール便扱いしやがって」
「ごめんね、ドラコ。ありがとう。私これすっごく食べたかったの。お父様とお母様に話をしてくれてありがとう」
「この貸しは高いからな!」


捨てるようにそんな言葉を吐き、その場を離れていったのは吽の友人の子供。学生時代、ルシウスはセブルスと一緒にいる変なグリフィンドール生に興味をもった。マグルかマグルでないかは置いておき、グリフィンドール生だ。嫌味の一つや二つくらいかけたが、まるで挨拶を返すかの如く軽く返されたのをルシウスには衝撃的であった。それから吽はルシウス、ナルシッサと仲良くなり、定期的にマルフォイ家にお呼ばれする仲となっていた。


「なんか、たくさんチョコレートもらっちゃった」



右手にはチョコレート3つ、左手にはいかにも高価そうな重厚感のある包装紙のついたチョコレート。疲れている時にまさかの事態であった。甘いもの好きな吽にとって二つとも同じくらい嬉しいチョコレート。嬉しい悲鳴というのはこういうことなのだろうか。数分前の憂鬱な雰囲気は何処へやら、鼻歌を歌いながら足取り軽く自室へ向かうのであった。


「遅い」
「セブルス?」


帰って来る予定の時刻から2刻3刻も時間が経っていた。ハーマイオニーとドラコからもらったチョコレートを食べながらお茶でもしようかと自室の扉を開いた時であった。ゴシック調の部屋に似ても似つかない黒コウモリがそこにいた。深く深く、眉間に皺を寄せて。


「ご、ごめん?スプラウト先生のお手伝いしてて・・・何か用?」
「・・・」
「セブルス?」
「・・・やっぱりいい」
「ちょ、ちょっと!どうしたの!わざわざ部屋に来たってことは何か用があったんでしょ?」
「・・・・・・先程ホグズミードに行ってきたんだがね」
「あぁ、なんか授業で使う道具を買うって言ってたね」
「・・・そこでお前の好きそうなやつが売っていたから買って来てやったんだが・・・いらぬようですな」


ちらり、とスネイプが一瞥した先には吽の手の中にあるついさっき貰ったチョコレート達。その吽がスネイプから少し視線を外すとローテーブルの上から今しがたスネイプの手の中に移ったのは、黒の背景にゴールドの細かな細工の絵がかかれたパッケージ。そこには筆記体でお洒落にchocolateとかかれていた。


「チョコレート!いる!いるいる!これセブルスが買って来てくれたの!?」
「そうだと言ってるだろ。でももう貰っているようなら・・・捨てるか」
「駄目だよ!!」
「全部食べる気か」
「もちろん!」


まさかあのセブルス・スネイプがチョコレートを買って来てくれるなんて!吽は歓喜した。それはもう目に見えるくらいに。
チョコレートを貰えた嬉しさというより、スネイプがチョコレートを買ってくれた、チョコレートを見て吽を連想してくれたということが嬉しかった。あのスネイプの意識の中で吽という存在が浮かんだのだから。吽は緩む顔を隠すことなくスネイプからチョコレートを受け取った。


「チョコレート一つでそんなに喜ぶなんてほんと子供だな」
「うるさいなぁ好きなんだもん。ていうかセブルスから貰ったものは何でも嬉しい」
「・・・ふん」


170505

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