「珍しい、あの財前がイライラしてへん」
「いつもやったら箱小さいってイライラするのにな」
「ちゅーか緊張してへん?」
「してへん」
「あ、これ絶対してるわ」
「なんやなんや、どしたん?好きな子でも来るん?」
ベースのチューニングを合わせてると煽るように取り囲む財前のバンドメンバー。下から睨み上げるが全くの逆効果で、「否定せんっちゅーことはほんまなんか!」と更に盛り上げるものとなってしまった。
「財前の好きな子ってどんな子やねん」
「お前もれっきとした男やったんやな・・・俺は嬉しい・・・」
「俺らは全力で応援するで・・・!」
「うっさい、もう出番や」
財前は相棒のカーマイン色のベースを持ち、顎でステージの方に向ける。腑に落ちないような、だけど楽しそうな顔をしているメンバーは、はいはいと言いながら各々の楽器を手に取った。
緊張することはない、いつも通りの演奏をするだけだ。財前は何度もそう心の中で唱えた。いつも通り、ステージに上がりストラップを肩にかけた。シールドも繋いだ。弦を弾く、音がなる、チューニングする。そう、いつも通りのルーティンを終わらせ一息ついて、肩の力を抜き前を向いた。
「(おった、)」
ヒュッ、と息を飲んだ音が聞こえた。狭い空間の中の角でじっとこっちをみる彼女がいた。その彼女は財前と目が合ったことに気付いたのか、少し照れたように小さく手を振った。その瞬間ギターの音が鳴り響いた。財前はハッと我に戻り、ベースを持ち直した。
いつも通りの演奏するだけ、再度心の中で唱えて。
吽:お疲れ様!めっちゃかっこよかった!
ほんま?ありがとうございます
吽:曲は全部財前くんが作ったやつ?
せやで
吽:ね、突然で申し訳ないないんだけど・・・
なん?
吽:手が空いた時とか暇な時でいいんだけど、少しロックな感じ歌ってみたくて財前くんがよかったら曲作ってくれないかなぁ、て?
「なにニヤニヤしてんねん」
「例の好きな子?」
「どんな子やねん!」
「・・・」
「俺らにも紹介してや」
「さっき客席おった?」
「わからんやったわ」
「・・・うっさい」
財前は肩にかかっていたタオルで口元を隠し、利き手でええよ、と返事をした。
170605
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