「ちゅーことで、とりあえず電話するで」
「え、あ、ちょっと」
「ほら、出た」
財前から渡された吽の携帯の画面には通話中の文字、相手は先程から何度かかかってきていた、彼氏の名前。突然、最近知り合った後輩に告白されて、更に今の彼氏と別れさせるなんて言われて戸惑わない人間はいないだろうと、現に吽は戸惑いを隠しきれていなかった。フリーズした頭はうまく働かなかったが、携帯から「もしもし」と聞こえた声にハッと、反射的に携帯を耳元に当てた。
「も、しもし」
『あー出た。今日もう授業ないんやろ?』
「・・・うん」
『今どこにおるん?』
「えっと、ちょっとお茶してて・・・」
『久しぶりに飯でも行かへん?』
「・・・今日用事があるんじゃなかったの?」
『あーそれ無くなってん。で、どこ?迎え行くわ』
間髪入れず話をしてくる相手にムッとしながら、目の前の男に顔を向けると会話が聞こえていたのか、財前は自身の携帯に「ええよ。俺も行く」と文字を打った画面を吽に見せた。
「・・・四天宝寺大学の近くのカフェにいる」
『あ、ほんま?俺も丁度近くにおるから・・・じゃあ四天宝寺大学の正門前に来てや』
「・・・わかった、じゃあ」
携帯の画面にある、赤いボタンを押して通話を終わらせる。流されるまま会話していたが、自分の気持ちに踏ん切りがまだついていない吽はこのまま目の前にいる後輩と彼氏を鉢合わせて良いのか迷っていた。
「よし、行くで」
「あの、光くん、」
「・・・なん?」
「・・・」
「嫌なら無理にとは言わへん。俺と付き合う付き合わへんは置いといて今のままあの彼氏と付き合い続けるん?」
「・・・それは、嫌」
「やったら、ほら」
行くで、と財前は吽の前に手を差し出した。恋愛経験値の低い吽でもこの手が何を示しているかわかった。きっとこの手をとったら吽は今の彼氏と別れることは確実になるだろう。そもそも想いなんてとうに枯れている。意を決して財前の手をとった。少し手が震えていたかもしれない。財前は安心したように一息つき、吽の手を握り直して、待ち合わせ場所まで数十メートルの道を歩き始めた。
「なんだよお前」
四天宝寺大学の正門の前には頭から1つ出ているギターケースを持った青年が立っていた。その青年が視界に財前を入れた途端眉間に皺を寄せ、苛立ちを全面に出してきた。その姿に反射的に握っていた手を離そうとした吽の手を財前はきつく握った。
「吽の新しい彼氏っすけど」
「は?何言ってんのお前」
「ちゅーことでお前とは縁を切るってことで」
「意味わかんねぇ、まさか・・・お前こいつに惚れてんのか?やめとけやめとけ、見た目はまぁまぁ良いけど中身は重いからな、めんどくせぇぞ」
嘲笑うかのように発される元カレからの言葉に吽の涙腺は緩んでしまった。悲しいというより悔しかった。なんでこんな男を一瞬でも好きだと思ってた時期があったのだろうかと。俯いてしまった吽を横目で見て、財前はハァ、とため息を一つついた。
「だからなんやねん」
「あ?」
「浮気したやつが偉そうなこと言うな。俺はめんどくさいところも好きになれる自信あるんで。あんたと違って」
「っ、光、くん」
「ほな、さいなら。行くで、吽....あぁ、せや、あんたこの前ライブ出てたやろ?そんなたっかいギター使ってるのにほんま下手くそやったわ。チューニングからやり直した方がええで」
相変わらずの無表情で言い放った財前は再度吽の手を握りしめて、来た道を引き返した。
「ちゅーか好きな子の事をめんどくさいとか思わへんやろ、普通」
「わたし、っ」
「あいつより俺の方がええ男の自信あんねんけど、それでもあかん?」
「こんなこと言われてときめかない女の子いない、よ」
「あーそりゃよかったっすわ」
財前は小さく笑い、吽の口にキスをした。
170805
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