僕らはまだ青いのだから、すこし目を瞑っていてほしい。







及川徹は苦悩していた。
事の発端はクラスメイトからのとある誘いから始まったのだ。


「おーい及川!次のオフって予定ある?」
「んー今のところ特にないけど何かあんの?」
「隣町のあの女子校の子たちと合コンすることなってさ、お前も来いよ!」
「アー...」
「おい、こいつ彼女いるじゃねーか」
「うわ、そうだった」


数人の、割と仲の良いクラスメイトの誘いは異性との出会いであった。きっと数ヶ月前の及川なら二つ返事を返していたところだが今はそうもいかない。及川は苦笑いをしながら断りの意味を込めてヒラヒラと手を振った


「3組の松本だっけ」
「そう、可愛いデショ」
「幼馴染なんだよな、なんでまた高校生になって付き合うことになったんだよ」
「えー俺とあかりちゃんの馴れ初め聞きたい?」
「なんか腹立つな」
「まぁ内緒だけどねー」


その場にいた男共を全力で苛立たせてから及川はそういえば、と同じバレー部のメンバーである花巻に用事があることを思い出した。花巻は3組、そして及川の彼女も3組、及川はあることを思いついたのだがそれがまさか苦悩する原因になるとは思いもよらず、機嫌良く鼻歌を歌いながら廊下を歩いて行った。


「あれ、徹ちゃん3組までどうしたの?」
「彼女に会いに来ちゃダメ?」
「あ、マッキーに用事?」
「え!無視!?」
「うそうそゴメンゴメン、ほんとどうしたの突然」
「あのさ、次のオフのことなんだけど」
「オフ?あ、そうだ私行きたいお店あって、徹ちゃんと行きたいなーって思ってたんだよね!」
「あー、ごめん実はクラスメイトに頼まれてその日隣町の女子校の子たちとの合コンに参加しないといけなくなっちゃってさ」
「合コン?」


すこし眉を下げ、手を前に合わせほんとに申し訳ないという雰囲気を出していた。いつか自分は役者になれるんじゃないかと自負しながら。
及川のビジョンではこの後あかりが怒り、慰めながら頭を撫でる、「もー徹ちゃんの馬鹿」なんていって仲直りする。嗚呼なんて愉快なんだと心の中でニヤニヤ笑っている及川だったが、現実は全く違う結果となってしまった。


「そっかー残念。じゃあこのお店なかのちんと一緒に行ってくるね。徹も楽しんでね」
「え、え?」
「あ、マッキー!徹ちゃんが用があるってー」
「エー?俺ー?」
「ちょっと!あかりちゃん!」





「ということがありまして」
「それは及川徹に愛想が尽きたんだね。お疲れ及川、今までありがとう。そしてさようなら。よし、万事解決」
「してないよ!?ひどすぎない!?友達だよね?相談乗ってよ!」
「待って、わたしいつ及川と友達になった?」
「待って、友達じゃなかったの!?」
「顔見知り...?」
「及川さん泣いちゃう」


まさか彼女に合コンに行くことを肯定されると思わなかった及川は頭を鈍器で殴られた衝撃を味わい、クラスに戻る一個手前の教室に入り、彼女の親友に今あった事実を話していた。


「俺とあかりちゃんが別れてもいいの!?」
「私はあかりが幸せなら相手が誰であろうと良し」
「相談する相手間違えた...」
「気づくの遅かったね」


はぁぁ、とため息をつきながらしほの机に突っ伏す及川徹。そんな姿を見て、目の前でコーヒーを飲む彼女も小さくため息をついて、口を開いた


「今回は100%及川が悪いよね」
「...ハイ」
「ていうか今までの女性付き合いが悪かった所為だよね」
「返す言葉もありません」


突っ伏しながら及川は答えた。そう、考えたのだ。今までの女性遍歴は決して褒められるべきものではないし、寧ろ印象としては最悪だ。初めてだったのだ、そういうことを「徹ちゃんはモテるもんね」と笑顔で返してきた女の子は。その笑顔が逆に苦しかった。初めて自分のしてきた行動を忌々しく思った。


「...まぁでもあかりが及川に愛想つかすわけないよ」
「え?」
「ほんっと意味わかんないんだけど、あんたにベタ惚れなんだよね、あかり」
「でも、」
「あかりはああ見えて色々考えてるよ。及川のこと。いつもヘラヘラしてるけど1番に及川のこと考えてる。だから不安になることない。寧ろさっさと嘘ついたこと謝ってきなよ」
「そう、だね」
「あーウジウジしてる及川きもい」
「台無し!!」


プンプン、と擬音がつきそうなくらい頬に空気を溜めて及川はその場を立った。あかりちゃんのところに行ってくるね、とそう言葉を添えて。しほは小さく笑いながらさっさといけ、と手で払いのける仕草をした。


「あれ、及川何しに来てたんだ?」
「んー?なんかわかんない惚気?」
「松本か」
「それしかないよね、はじめちゃん数学の宿題した?」
「おー」
「見して」
「しょうがねーな」






「あ、かりちゃん!!」
「うわ、徹ちゃん!?びっくりした、さっきもきたのにほんとどうしたの」
「さっきの嘘だから」
「え、さっき?嘘?」
「合コン行くってやつ」
「あ、あー、そっか、うん、よかった」
「誘われたけど、断った」
「もー変な嘘つかないでよね」
「ねぇあかりちゃん」
「なに?」
「なんで合コン行くの止めてくれなかったの?」


及川は眉毛を下げた表情をしていたが、今度は演技ではなかった。彼女の親友に大丈夫と言われても、自分で蒔いた種なのに、及川の心に不安が渦巻いていたことは確かであった。
そんな及川の姿をみて、あかりはふふっと笑った


「たまには男子高校生らしいことしたいのかなって思って」
「え」
「オフじゃない日も、一緒に帰ったりしてくれてるからさ、クラスメイトとも遊んだりしたいのかなーって」
「でも不安じゃないの、?」
「不安だよー不安に決まってるよ、でも最終的に私のところに帰ってきてくれるかなーって私のうぬぼれ?」
「あーーーもう!愛想つかれたかと思ったじゃん!」
「わたしが?徹に?愛想つかす?そんなことあるわけないない」
「.....それさっきなかのちんにも言われた」
「あはは、流石なかのちん!」


ごめんね、と及川は囁いた。試すようなことをしてしまって。結局試すどころか自分が試されていた。


「お詫びにさっき言ってたお店、行こう」
「あ、さっきなかのちんに行こうって連絡しちゃった」
「えー」
「じゃあ国見誘って4人で行かない?」
「え、なんで国見ちゃん?」
「なかのちん、国見ちゃんのこと好きなんだって!」
「うっそ!まじで!?それすっごい面白いんだけど!」
「だよね!」


高い鐘の音が鳴り響いた、予鈴だ。ひとしきり笑い終え、あかりがじゃあ、と教室に戻ろうとした。が、その腕を及川が掴んでいた


「徹ちゃん?」
「あかりちゃん」
「なーに?」
「好きだよ、俺にはあかりちゃんだけだから」


高校3年生 5月






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