素直になれないのはきっと距離のせいだ




(未来:25歳くらい)



「ねぇちょっと聞いてる!?」
「うん、聞いてる聞いてる。この間花巻が職質受けたって話でしょ」
「何それ聞いてない超面白いじゃん・・・じゃなくて!徹ちゃんの話!」
「徹ちゃんとやらの話は聞いてなかったなぁ」


あかりはドン、と勢いをつけて手に持っていたグラスをテーブルに置いた。そのテーブルには既に空きの缶とボトルが肩身狭そうに転がっていた。長年の付き合いで解る、これは確実に酔っている。志帆は隣にいた男に目配せをして、男は小さく頷きキッチンに向かった。


「だってさ、おかしくない!?海外遠征なんてずっと前に決まってたはずなのに2日前に言うなんてさ!」
「そうだねぇ」
「それに遠征行ってからずっと連絡無しだしさ!意味わかんない!明日記念日だって言うのに!」
「そっかぁ」
「ほんっとむかつく!」


あかりは手元にあったスナック菓子を口に入れ、流し込むようにグラスの中にあったブランデー色の液体をいれた。


「あかりさん飲み過ぎ、水飲んでください」
「いらない!てかさ、国見は海外出張になったらどれくらいの頻度で中野に連絡すんの?」
「まぁ場所にもよりますけど時差あるんで電話はほとんどしないです。メールはしますけど」
「毎日?」
「はい」
「あーもう!徹の馬鹿!!むかつく!」
「及川が遠征行く度うちでヤケ酒するのやめてもらっていいかなぁ」
「なんで!慰めてよ!」


及川徹。ヤケ酒をしている女の恋人である。青葉城西高校卒業後、推薦にて都内の体育系大学に入学。大学在学時にバレーボールの日本代表に選出され、セッターとしてめまぐるしい活躍を見せた。卒業後も実業団の選手をしながら、日本代表の正セッターとして注目を浴びていた。そんな及川徹は現在アメリカで強化合宿を行なっている最中であった。


「忙しいんだよきっと」
「それは解るけどさメールの一つくらいくれてもよくない!?」
「まぁ・・・そうだね」
「先俺風呂入ってきますね」
「あ、うん。タオルと着替え出しておくね」
「いいですよ。あかりさんに付き合っててください」
「国見ちゃん、逃げるな!」
「ほら、英は私たちと違って明日普通に仕事なんだから許して。しょうがないから私の秘蔵酒開けてあげる」
「えー、ほんと?やった!」


これはあと2時間は続くかな、と志帆は考えながら席を立った。ふ、とテーブルの端に置いてあった携帯を見るとちょうど電話の通知が来ていた。こんな夜中に誰だ、と訝しげに携帯を手に取ると小さなため息が溢れ出た。


「あかり」
「んー?」
「噂をすれば」


通話とスピーカーボタンを押して少し距離の空いたあかりに携帯を軽く投げる。受け取る気は無かったのか近くにあったクッションに身を投げた携帯からはガヤガヤした音とつい今しがた話していた男の声が聞こえた。


『中野ちん!あかりちゃんどこいるか知らない!?』
「徹!?」
『え、あかりちゃん!?あーよかった、中野の所に行ってたんだ・・・じゃなくてさ!なんで電話でないの!』
「電話したの?あー・・・ごめん、マナーモードにして気がつかなかった」
『せっかく俺が電話したのに!』
「なにそれ、今まで全然連絡してくれなかったじゃん!」
『忙しかったんだからしょうがないでしょ!』
「それでもメールの一つくらいくれても良くない?」
『だったらあかりちゃんだって寂しいの一言くらい言ってくれてもいいじゃん!』
「別に寂しくないし」
『国見ちゃんとこ行くの寂しいからでしょ。知ってるんだからね!』
「は、違うし。徹ちゃんはアメリカでスタイルの良いお姉様方に鼻の下伸ばしてるんでしょ!どうせ!」
『そんなことするわけないじゃん!そりゃあうちの彼女に比べたら胸は大きい子はたくさんいるけどね!』
「むかつく!」
『てかさ、こっちのご飯ほんっと美味しくなくてさ』
「話変えるな!」
『そんなにめちゃくちゃ美味しいわけじゃないけどあかりちゃんのご飯が恋しくなったわけ』
「は?」
『メールも電話もしなかったのは早く帰りたくなるから』
「ちょっと、」
『今週の土曜日、19時30分に成田着くから迎え来て』
「いや、ちょっと待って、てかわたし仕事だし迎え行けるわけないじゃん」
『はぁ?俺が迎え来てってせっかく言ったのに断んの!?日勤だよね?』
「日勤だけど定時に上がれるわけないって知ってるでしょ!?それに羽田ならまだしも成田遠すぎ」
『・・・・・・はぁ、もう、ほんと、馬鹿』
「は」
『わかった、もう、とりあえず日本ついたらあかりちゃんの家行くから。この前作ってくれた煮物食べたい。じゃあね』
「え、ちょ、徹!・・・・・・切れた」



「どうしたんですか?」
「いや、及川もあかりも素直じゃないなぁって」



170124






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