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拙い言の葉の庭

連載壱部後あたり(juju)


「あの子の苦手なものでも検証しよう。少しは可愛げが芽生えるかもしれない」
「あの子は既に十分可愛げがあるよ」
「黙れ傑」

五条は婚約者である年の離れた少女の苦手なもの探るために、多方面からのそれらしいもので責め続けた結果。
少女から塵を見る目で見られることになった。

「何処に可愛げがあるの?」
「それは今までの行動をよく振り返ってから言ってみて」
「だってさ〜褒められねえじゃん」

それって…、可愛いって言う為の口実を探していたの?と夏油傑は勘づき笑いを必死に耐えていた。不器用も天元突破すると口にすることも出来ないとか滑稽。という単語を浮かべながら震える夏油。五条はめげずに少女の腕を掴み次なる王道な趣向で責めることにした。絶対にコレだけはねえわな、と片腹笑いしながら一応、といったレベルで試みることに。

「はい。ここに座って。じゃあ電気消すよ」
『え、なんで』
「雰囲気でないじゃん。なめてんのか?」
『なんで急にマジトーンなの』
「女の子はそういうの気にするから」
『え、何処でそんな配慮が伺える場面だったの』

戸惑う少女はソファーの真ん中に座らせられ、両サイドに五条と夏油が配置。薄暗い室内でDVDが読み込む機械音と液晶の青白い光に包まれ、映し出された映像と音楽に、少女は静かになった。
時刻版が過ぎる度に少女は膝を抱え始め、身を縮め、でも静かにしていた。五条は隣に座るそんな少女の様子を眺めながら揶揄うような声で尋ねた。

「どうしたの?婚約者ちゃん。まさかさぁ、ホラー映画とか苦手なの?」
『っ――』

少女が何かを口にする前に画面に突如、大きく映り込んだこの映画の最大の売りと音声に悲鳴を喉の奥へと潰し五条の腕を掴んだ。

「え……」

肩をビクつかせ震える身体で五条の腕を弱弱しく掴みながら、固く目を閉じる少女の目尻には涙が溜まっていた。
そんなか弱い姿を目の当たりにし、五条の喉が鳴る。動揺。それは隠しようもない程の動揺と、心の底から溢れるばかりの愛おしさ。ぶわっと顔に熱が集中する五条は、名を囁きながらもう片方の手を伸ばし少女の頬に触れようとしたが、再びの恐怖シーンの際に反対側にいた夏油が少女に声をかけた。

「大丈夫?」

その声にすぐさま反応をした少女は掴んでいた手を離し、夏油の方へ手を伸ばし懐に飛び込む。首を左右に振り服を掴み震える姿に夏油は少女を膝の上に乗せ画面から見えないように抱き込んだ。

「もう大丈夫だよ。耳を塞いであげるからしっかり掴んでて」

夏油の手が両耳を塞ぐ。砂糖水を溶かしたような夏油の優しい声に五条は吐きそうな顔と苛立ちによって額に青筋を立てていた。そんな五条の顔を暗がりの中でもしっかり視認出来ていた夏油は得意げにほくそ笑んだ。

「傑。俺の婚約者なんだから今すぐ離れろや。それ婚約者特権ぞ」
「ええ?負け惜しみ?今更婚約者ぶるとか暴力でしかないんだけど」
「はああ?選ばれなかった奴が何言っての?それこそ負け惜しみじゃん。うっそ日本語もわからないの?読解力でも拾い食いしてきたら?」
「強いっていう肩書だけで選ばれただけの分際で旦那面すんなよ。マウント取れてないけど現状把握出来てる?」
「………」
「………」

耳を塞いでいた少女だけは知る由もなく。ただ何か言い合いをしている事だけは解っていた。そして少女はずっとこう思っていた。

『どっちでもいいから早くDVD止めてくれないかな』