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拙い言の葉の庭

短篇・先生、それいっちゃダメなヤツの前世

「結婚してくれないか」

年の離れたお前に告げずにはいられなかった言葉。まだ言うつもりはなかった。なかったが緋色の差し込む室内でお前と二人きりでいると、朧げに残る幻影が燻る。
生きるか、死ぬか。殺すか、殺されるか。そんな激動の中に身を投じながらもお前が待つ家に帰りたかった。血を背負いながらもお前が出迎えてくれるあの家に。


「旦那様」

奉公をしにやってきた下女のお前は俺のような奴を相手にしても文句をひとつも言わずに。
甲斐甲斐しく世話をやいてくれた。こんな俺の傍を離れないでくれた。俺はお前から貰ったものを何一つ返せずに、ただお前から搾取し続けた。ああ、俺だけが幸せでいたことを悔いた。聞くのも恐ろしかった。
お前は俺のような奴を伴侶にして幸せだったか?

諭すようにお前は言葉を繕う。だがそこには悪意などはない。

何故?その質問はとてもお前らしかった。何故逃げ道を用意してくれるのか。優しさのあまりに情けなくなってくる。俺はお前を幸せにしたい。今度こそはお前に告げられたい。


“あなたと居られて私は幸せだよ”