猛毒が襲う



※ミッドナイト路地裏でおやすみのふたり



「名前……あれ?名前どこ?」


夏油に用意してもらった小さな住宅の一室に、人間らしく扉から入ってきた真人は自身の帰りを待つ少女の名前を呼ぶが返事が返ってこない。首を傾げながら室内の部屋という部屋を覗きに行き捜していると、名前は洗濯物を畳みながら眠りについていた。真人は心の中に広がる温かな気持ちを撫でおろしながら近づき、隣に腰かける。気持ちよさそうにソファーの背にもたれかかりながら眠る名前のあどけない表情に、触れたい衝動を抑えられず頬へ手を伸ばし、指の腹で柔く触れた。前髪が目にかかっているのを見つけるとそっと払いのけ、今にも口に含みそうな位置にある髪を耳へかけるように流す。健やかな寝息を聴きながら真人は表情を緩めた。


「見ていて飽きないな。ああ、でも。名前を拾ってから飽きたことないや」


どうしてかな、と春の陽だまりのような声を落としながら薄く開く桜色の唇に軽く触れる。長い自身の髪が降りて彼女の頬を掠めるから眉をピクリと動かして、重たそうに瞼が持ち上がってくる。その様を唇を離した距離で見つめながら、ぼんやりとその眼に自身が映ると嬉しそうに「名前。おはよう」と言って額にリップ音を鳴らす。

ぼんやりと瞬きを数回繰り返しながら『ぁ、ぅ』とまだ働かない思考のまま目をこする名前の頬に、蟀谷に、顔中至る所にくちづけを贈り続けている真人に、次第に自身の状況を把握し始め顔中真っ赤になりながら頭から湯気でも出ているんじゃないかってくらい、真人の身体を押して抵抗しはじめたので、真人は「あ、起きた」と朗らかに笑みを浮かべた。手を繋ぎ、指を絡めて真人は膝をくっつける。距離を置こうとは思わない彼の性格を理解しつつある名前は恥ずかしそうに、少しだけ絡めた指に力をこめた。


『帰ってきたのなら起こしてください』
「ええ?なんで?」
『なんでって。寝ている顔は見られたくない、です』
「どうして?」
『ブサイク、なので』
「ん?不細工?そんなことなかったよ。かわいいよ。それに今更寝顔見られて恥ずかしいの?いつも一緒に寝てるのに」
『そっ!それは真人が寝ている間に勝手に入るからで、べつに、一緒に寝ているってわけじゃ』
「ん?ちゃんと言わないとダメじゃん。どうして欲しいの?」
『だから、その……おかえりなさい!』
「……ふっ!なにその文脈。支離滅裂すぎじゃない?あははは!もう名前は面白いな」
『だって、言ってなかったなって思って……』
「うん。名前のそういうところもすきだよ」
『!ま、真人こそ答えになってません』
「え?答えになってるよ。ただいまって名前にしか言わないし。俺」
『??』


首を傾げる動作をする名前の姿を見て真人は身を乗り出して、無防備な唇に軽く触れた。驚く暇もなく名前は目を点にしながら真人だけを映す眸を揺らす。その鏡のような世界を真人もまた見つめながら柔らかく笑みを浮かべた。


「すきだよ名前。だからずっと俺の手を離さないでね」


真人は肩に顎を乗せ耳傍を息で撫でるように囁いた。それはまるで呪いのような言葉だった。



真人が……めっっっちゃ好きなんだけど。純粋すぎてもうやばい。かわいい。が爆発してこうなった。ぶっちゃけ真人×一般人な組み合わせがデリシャスなんだよね。え、そうおもわん?