初恋retry



今でも忘れない高校生の春。
廊下ですれ違っただけの違うクラスの男の子を好きになった。
住む世界が違くて、進む先のビジョンが違くて、何かをする前に諦めただけの情けない恋をした。そんな前すら進んでいない恋なんて直ぐに忘れてしまうと思った。いや、忘れられると思っていたのに。私はこの発展すらしなかった恋を、努力もしなかったこの恋を、忘れることが出来ませんでした。
馬鹿みたいにひきづったこの恋はきっと、初恋だったんだと思う事にした。初恋なら忘れられなくて当然だと、大義名分が欲しかったから。言い訳を並べて今も見苦しく恋に縛られて生きています。

「うわぁ!久しぶりだね!!」
「十年振りじゃない?!」
『みんな大人になって』
「いや、アンタもだから」
「ほんとだよ」

十年振りに高校の同窓会が決行された。十年前から考えると居酒屋でお酒を片手に仕事の愚痴を語り合うだけで面白いなんてきっと思わなかったと思う。
お酒がなければ大人は何も出来ないなんて、あの頃の私が見たらきっと「馬鹿だな」と思うだろうな。それだけあの頃の私は子供で、それだけ今の私は大人になってしまったことを悟れてしまう。ああ、なんか感傷深いかも。

「ねえ、うちのヒーロー科めっちゃ活躍してるよね」
「誰か知り合いいないの?」
「居るワケないじゃん。俺ら凡庸な人間にンなコネないって」
「めっちゃイキってた爆心地とか、ランキング上位じゃん」
「それを言うならあの冴えないデクが1位なんてびっくりだよ」
「爆心地となら結婚してもいい」
「ええ〜優しそうなデクじゃない?やっぱ」
「あたしはショートかな。綺麗だし、やっぱ顔がいいのを旦那にしたい」
「出た!メンクイ女が」
「いや、普通に学生時代から好きだったから、マジで」

レモンサワーのグラスが揺れた。水滴が指に垂れて腕を伝っていく。
えっちゃんって轟くんのこと好きだったの?うそ、知らなかった。
あ、いや、普通に轟くんカッコいいから好きにならない女の子が居るワケないか。じゃあもし当時えっちゃんに恋の相談していたらバトルになってたのかな。それなら言わなくてよかったかも。今もえっちゃんとは仲良く関係を続けている訳だしってなんでこんなに言い訳してるんだ、私。テーブルにグラスを置いて唐揚げをかじる。

「名前も!好きだったでしょ、轟くんのこと」
『……あ、うん。私もメンクイだからね』

えっちゃんに肩を抱かれ巻き込まれる。あっぶない。今も好きとか悟られていないよね。ミーハー女みたいに轟くんが活躍しているニュース番組録画したり、記事をスクラップしたりしてるなんて危ない女だわ。我ながら、気持ち悪いわ。ほんとっ引くわ。いや、隠れファンならいいんだ。そうそう。普通だから。

「何騒いでんだようるせぇぞお前ら」
「心操じゃん!」
「うっそ!来たの??」
「来るだろ。最初は普通科だったんだから、てか来てほしくなければ連絡寄越すな」
「だって心操はプロヒーローだからさ。来ないと思うじゃんよ」
「プロって言ったって人間だから。何言ってんだよ」

心操くんが座ると場が更に盛り上がった。皆口々に心操くんに質問をしていて、心操くんも楽しそうに応えていた。ふと目が合って笑いかけてから、お手洗いのために席を立った。
靴を履いてからトイレへ向かい用を済ませてから手を洗って鏡を見つめる。

『はあぁぁぁ〜〜〜』

大人になってから嘘をつくのが上手くなってしまう。自然と身についてしまうスキルだと思う。鏡に映る私の顔は真っ赤になっていた。お酒の所為もあるけど浮かれているんだ。あの頃に戻ったみたいに。鏡には高校生時代の私が写っていた。

『轟くんが好き。ずっと好き。今も変わらずに好き……なんてばっかみたい』

何もしなかったのに、自分で動くこともしなかったのに、何が好きだよ、ばっかじゃないの。そういうの他力本願っていうんだよ。恋する資格すらないし、轟くんと噂になってる女の子たちと同じ土俵にすら立ててないから。負け惜しみだ。

『吐けばいいのに吐けない辛い。なんで私、お酒つよいのさ』

化粧ポーチに入っているリップを取り出して塗りなおす。肌がちょっと荒れてるかも。
軽く化粧を直す。しっかり直すつもりはない。格好だって気合を入れすぎない程度の服にしたのも別に気合を入れる程の想い人が来るわけじゃないから。
ドアノブを掴んで外へ出ると男物の靴が見えた。女子トイレの前で待ち伏せって、誰だろう。トイレの中には誰もいなかったから電話しに来たのかな。それにしても非常識すぎでしょ。目を合わないようにしようと下を見続けてこの場から抜け出そうとした腕を掴まれた。
なっ、酔っ払いに絡まれた最悪!っと掴まれた腕を剥がそうとすると慌てたような声が届いた。

「苗字っ、俺だ」

誰だよ!!俺田くんなんて知らんわ!!……ってこの声聞き覚えのあるような。顔を見ようと上げた瞬間、彼の口から名が告げられた。

「轟だ」
『ぇ……と、どろきくんっ』
「ああ。俺の事憶えているみたいだな。よかった」
『え、ん?轟くん?え、なんで?こんな安っぽい居酒屋にいるの?』
「心操に誘われて。今日ここで同窓会をするから来てみないかって」
『いやまあ、同窓会してますけど。轟くんはヒーロー科だから関係ないよね?』
「ああ。同窓会事態に関係ないが、お前に会いたかったから」
『……ん?』
「俺が苗字の事好きだと言ったら心操がキッカケでも作って告白しろって……あ。言うなって言われてたんだった」

んんんんんんんんんん????????