この恋はもう神頼み



審神者と刀剣男士が恋をする話がよく出回っている。うん、同人誌はこっちの世界でもあるよ。ナマモノだね。なんかそれが普通みたいに思ってるみたいだけど、ぶっちゃっけ自分の生活に置き換えてみてよ。あり得なくない?
だって、一緒に仕事してんだよ?しかも自分が上司。上司がなんちゅう目で部下の事みてんの?そりゃエコ贔屓とか言われるよ。当たり前だね!というか、戦争している自覚ある?え?ないだろ?頭の中花でも咲かせてんのかい。それでも恋するとか最早本能だね。生存本能かな?すっごいもの搭載してるよね。私にはないから多分、生きたくはないと思っているのかな。うん。わかりみ。

まあ、最大の理由はさ。平凡顔が美顔に恋とか恐れ多いにも程があるだろ。それでも刀剣男士が平凡顔いいってそれ審神者権限じゃんね。権力を行使していないとは言わせんぞ。主じゃなかったら絶対に見向きもされない。そんな自信しかない。

つまりはつり合いが取れない上に、身の程知らずにもなりたくないというか、恋なんて生まれる訳もねえんだよ。という審神者がいてもいいじゃないか。なんだよ。ダメかよ。そんなに恋に恋して生きてねえんだよ。搭載してねえわ乙女フィルター。どっかに置いてきたわ。

『つまり、私は自分の刀剣男士と恋愛する気はない!断じて!』
「ああ、なるほど。つまりそれを言ったらこんなところにぶち込まれたのか、きみ」

煙管を吹かして、妓楼の一室で正座しながら酒を片手に男遊・鶴丸国永相手に熱弁した。
友人が勝手に私をここへぶち込み「反省したら出してやる」と言われた。なにをやねん。自分が刀剣男士と恋仲になったのを他人に認められたいという承認欲求を満たしたいがために、私をここへぶち込んだのか。とんだ迷惑だ。友人ではなく、知り合いに降格やな。まあこんな世界で友人なんてただの上辺だけだわ。

「きみは鶴丸国永おれが好きなのかい」
『いや。顔は好きだけど。別に恋じゃない』
「照れ隠しでもなさそうだな。じゃあなんだってこんなところに」
『知らない。勝手に勘違いしたんじゃない?女はさ、認められたい生きものなんだよ。なんでだろうね』
「きみも女だろ」
『ははは、そうだった。忘れてたわ一瞬』
「一瞬でも忘れるなよ」

酒がきれたな。と瓶を振りながら杯を置き背伸びをする。私は別に男を買いに来た訳じゃないから布団が敷かれている奥の部屋に全く持って興味がないから見向きもしない。

『自分の刀剣に感情を向けるのは違う気がする。なんていうかさぁ。押しつけみたいに思えるじゃん。逆らえないでしょ、あんた達ってさ。だから、嫌なんだよね。そういうの』
「相手がもし、きみに懸想をしていても、きみはそうやって断るのかい?」

煙を顔に吹きかけれ咳込むと畳の上に押し倒された。うげっお酒飲み過ぎた所為で目が回る。眸に映るのはこちらを見下ろす鶴丸国永……ローアングルから見ても綺麗とかちょっとイラっとするな。こんな顔で近づかれたら普通の女なら振り向くんだろうな。私にはその感覚を持ち合わせていない。身持ちが硬いとか処女とかなじられるけど、そこまで流されたいとも思ったことがない。好きな人ならいいけど、そうじゃないなら誰だって触られるだけで鳥肌が立つってものだ。

「きみはまるで新雪のようだな。誰にも踏み荒らされない山奥のどこか。ひっそりと誰も見つけてはくれないな」
『別に見つけなくていいし、他人に踏み荒らされる方が我慢ならないから。私は恋に夢みてんだから仕方ないでしょ』
「……ふっ、かわいいなきみは。きみみたいな女は初めてだ。一夜を供にしたら俺のものになってくれるかい?」
『なら「ならねえよ」

襖がぶっ飛んできた。上に被さっていた鶴丸さんが退くと、私を起こし抱き寄せるのは私の刀剣の、鶴丸だった。

「主。あとで詳しく聴かせてもらおうか。ああん?」
『うわぁー激おこじゃん』

ぎゅむっと音がするほど鶴丸に強く抱きしめられる。細いのに何処にそんな力があるのか不思議でしょうがない。でも懐かしい匂いがする。この匂いはすきだなって思う。鶴丸の着物を掴み、瞼を閉じた。

「彼女、寝ちまったみたいだな」
「ったく。幾ら強いからって飲み過ぎだ」
「彼女の為に弁明しておくが、彼女は自分の意思でここへ訪れた訳じゃないぜ」
「知っている」
「言われるまでもないってか。難儀なもんだな鶴丸国永おれ

翌日しこたま怒られた。何の話をしたのか、覚えてないけど。鶴丸に正座させられて怒られた。


※moss様からtitle拝借しました。