monster×sss

2021.06.23 年の離れた友達

『服ですか?なんでもいいですよ』

期待はしていなかった。かわいいものが好きな夜蛾先生のことだから、恐らくファンシーな服でも買ってくるのだろう。だが、今の顔なら何でも似合うから怖いものなしだった。

「きみの自信はどこから湧いてくるんだ」
『三日月パパ万歳』
「顔か」

鶴丸が灰原さんから頂いたジャージを着て、私と打ち合いをしていた。ちなみに私は硝子さんのティーシャツを着て、下は短パンを履いている。木刀の打ち合いがカンカンと鳴りながら互いに距離を取ったところで「才ちゃん」と呼ばれる。

『灰原さん』

荷物を抱えて灰原さんと七海さんが夜蛾先生と共に居た。今日は私の身の回りに必要なものを買ってきてくれた。私は外界への外出許可が中々下りないため。任務のときは下りるけど。休暇届は受理さないというブラック企業さながらである。

「服買って来たよ。どれも似合うと思う」
『ありがとうございます。お休みの日を潰してしまってすみません』
「別にいいよ。僕らも欲しいもの買えたから。あ、甘いの好き?一緒に食べよう」

灰原さんは下に妹さんがいるからか、いつも私と喋るときはしゃがんで目線を合わせてくる。でもそれ幼い子扱いだよ。とは言えず手を引かれるままにベンチへと連れて行かれる。
鶴丸が荷物を運ぶと夜蛾先生と席を外し、七海さんはお茶を買いに自販機へ。私はベンチに座らせられ隣に灰原さんが腰かけ、人懐っこい笑顔を向けられ何も言えまいと口を噤んだ。

「桜餅の葉っぱ食べれる?僕の妹は駄目なんだよね」
『そう、なんですか』

私も食べられないんだよね。苦手というか葉っぱだからかな。何も言っていないのに葉っぱを向いて「はい」と口元に寄せられた。食べろってか。手ずから食べろって、交互に見やるがまるで邪な気持ちがない。嫌がらせの類でもない。ああ、この人は私を通して妹を見ているのか。また誰かの代わりだと思うと苦笑いをしてからかぶりついた。

「美味しい?」
『ふぁい』
「よかった。桜はもう散っちゃったけどお花見、まだしてないなって思ってさ」

残っている食べかけの桜餅を自分の口の中に入れてしまう灰原さんは天然のタラシであると命名した。思いがけず心拍が跳ねた。恥ずかしながら視線を外す。

「お茶買って来たが」
「ありがと七海」
「あなたも苦手じゃなければ」
『ありがとうございます』

七海さんは私の良心だと思っている。というか一般的な考え方を所持しているというか。標準であり、基準である。だから上手く付き合っていきたいと思っているのだが、今もまた距離をとられてしまう。ベンチの背もたれに寄りかかるだけ。いや、適切な距離ですよね。わかります。

『七海さんもお付き合いして頂きありがとうございました』
「いや。気にしなくていい。君は自由がないから」
「ねえ、才ちゃん。友達になろう」
『文脈って知ってますか?』
「いきなり何言ってんだ灰原」
「だって、ここには年頃の近い友達いないじゃん。僕で良ければ友達候補に立候補したいんだけど。そしたら敬語とってもっと気楽に話してよ。なんでも」

唇の端に親指が触れ、餡子が取られるとパクリと食べられる。思いかけずに顔を真っ赤にしてしまった。滅多な事で私は生きている人間にときめくなんてことはないのだが、言っていて虚しい。でも、こう純粋な感情で触れられると心臓爆発しそう。だからきっと夢中で首を縦に振ってたんだと思う。年頃らしい眩しい笑顔にやられて。

「よし!じゃあなんて呼ぶ?七海もね」
「勝手に話を進めるな」
『ユウちゃん。ナナちゃんにする』
「随分と女の子っぽい呼び名だね」
「俺も含まれているのは決定なのか」
『だって女の子の友達が欲しいから』
「なるほどね。がんばるよ」
「何処に?」
『呼び名だけね。あとは、普通に接して欲しい、かな』

指と指を合わせていじっていると二人ともペットボトルのお茶を差し出した。私は両手でペットボトルを掲げて、二人のペットボトルにあてた。