蜘蛛と蝶のような関係。

喰種にも偏食家は確かに存在する。
好き嫌い趣向と嗜好の違い。食べるものが違うだけで人と大差など存在しないのだから。
当たり前だ。でも人間はそうは考えない。
人間は人間から一脱する者を例え同じ人間だったとしても【化け物】と称する。
浅はかで愚かで身勝手な人間をそれでも僕は愛そうと思う。

憎む気持ちも、哀しい気持ちも湧き上がるけれども、それでも人間を愛さなければ僕は、僕の傍に居てくれる彼女さえも否定しなければならなくなるのだから・・・・・・。



「なまえ」



共用スペースのソファーに座る彼女の名を呼ぶけれど、反応がない。
ゆっくりと歩み寄れば彼女は眠っていた。
珍しい・・・いつもこんな無防備な姿を晒さないように細心の注意を払って室内でしか眠らないようにしている彼女がうたた寝をこんなところでしているなんて。



「・・・・・・」



目の下の隈にそっと触れる親指。
寝不足なのか、疲れているのか・・・無理もない。自分の我儘に人間である彼女を巻き込んでいるんだ。無理をさせているに決まっている。
生活リズムも崩れただろうし、彼女にとっては不便でしかないのだろう。

それでも僕は気がつかないフリをして、わからないフリをして彼女の手を離さなかった。
幸せを望むことさえも出来ずに、僕は彼女にすがりつく。
あるでくもの糸に捕まってしまった蝶のように、その蝶を捕食するまで可愛がる蜘蛛のように・・・・・・まるで僕と彼女の関係のようで笑ってしまった。



『カネキ・・・くん?』
「ごめんね。起こしちゃった?」
『ううん・・・・・・おかえりなさい』



彼女は目を覚まし、僕は謝るけどでも彼女はどこも怒ってなどいなく。
替わりに僕の頬に触れてくる君の温かな体温に涙が出てきそうだった。
優しく、やさしく・・・まるでドロドロに溶けた砂糖水の中に入れられた気分だ。



「ただいま」



その手に手を重ねて僕は上手に笑えただろうか。
君がくれるあの穏やかな笑みに似合うものをあげられただろうか。

君の前では人間でありたい―――。