※爆豪勝己の女に手を出すな。のヒロイン。
※高校生になりました前途多難。



「てめぇ何で昨日無視したんだよ」
「いや、返事いらないかと、思いまして……」
「あ”あ? 俺のメッセに返答返さねえ選択肢はねえーんだよ」



いや、あるだろう。お前は何様だ、俺様か。王様か、コノヤロウ。

耳を塞ごうと腕を動かそうにも、バチバチと個性で脅されると小心者の私はゆったりと脱力に身を委ねた。
中学の一年間。散々な目に合ったのは今でも恨みに思っている。
おかげで友達は無に返るわ。誰も寄りつかないわ。放課後は追い回されるわ、勉強教えてもらうわ…あれ?後半優しい。違う違う。騙されるな。

何度ご神木に藁人形と釘を刺しに行ったことか……。

おまけに高校も一緒で、同じクラスっていうのが最早呪詛返しだろ。人を呪えば穴ふたつ。頭を抱えて「何故だ、何故だ」とこの世の不幸を呪った。
だがひとつだけ唯一の救いなのは、緑谷くんと同じクラスだということ。



「なまえさん…その、大丈夫?」
「緑谷くん…ありがとう」



君のおかげでHP回復したよ…5だけ。

メシアと拝むとお茶子ちゃんや梅雨ちゃんも集まり、ほのぼのとトークを繰り広げる。
急にフェードアウトした爆豪は、切島くんに呼ばれたのでいないよ。切島くんにはあとで食べ物を贈呈しよう。ありがとう。君は私の騎士だよ。
だけど休み時間は短い。予鈴が鳴り、皆席に戻る。私も自身の席につくと離れているのに爆豪が私を睨んでいた。

―――Why?!

ああ…胃が痛い。ガタガタと震えながら教科書を開く。



「どうしたなまえ。腹痛いのか?」
「女の子にそれ聴いちゃう轟くんの精神に打撃。まあお腹が痛いんじゃなくて、胃が痛いのさ」



心の涙を流しながらノートにがりがりとシャーペンを走らせる。私の隣は轟くんだ。
顔は端整な上に頭も良い。今のところ私に害のない人物だ。
でも、君と話す度に爆豪がこちらにガンを飛ばしてくるので、なるべく喋らないようにしている。ごめんよ、轟くん。社交で話してくれているというのに……。



「お前よくそんなんで爆豪と付き合ってるな」
「……好き合ってないよ」
「……は?」
「何か向こうが勝手に付き合う宣言してるけど、私は別に爆豪くんの事好きとかじゃないし、そんな気持ちは一ミクロも思ったことも抱いたこともない。しかも襟首掴み上げながら宣言されたけどね中学の頃。そんな相手のことを好きになっちゃうとかそんなつり橋効果発動しないから、当たり前だけど私はそんなに安い女じゃないし。そもそも好みのタイプじゃないし。私はもっと優しくて紳士的な抱擁力のある男性が好きですけど、なにか文句あるのか!」
「な、ない……」
「だろ?!!」



授業中のため小声で全て発言したが、全く腹の虫が収まらない。寧ろ燃え上がって炎上中だ。胃が痛いのさえ忘れるほどアドレナリンが爆発している。
ミミズ文字のノートが筆圧の重い文字へと変貌を遂げる。
そんな私の激情の変化に若干驚く轟くんの表情は何とも面白かった。

イケメンも驚くのか、くそイケメンカッコイイな!



「迫力あんだからはっきり断ればいいじゃねぇか」
「轟くんがモテるのに女子から醒められる理由がよくわかった。だが不可能なのだよ……ほれ、見てみ」



指してあげると素直に指先の人物へと轟くんが視線を投げる。そこには、片手を此方に向けて火花をバチバチとさせている悪人面の爆豪勝己がいらっしゃった。
轟くんは「あ」と声を漏らすも私へ視線を戻す。



「ねえ、恐いでしょ?敵より恐いでしょ?寧ろ敵のがまだ可愛いよ。自尊心がエベレスト級でクレイジーな奴の神経を逆なでするなんて自殺行為でしょ。そんな命綱なしに出来ませんよ。私は平和主義なんです。会話で解決できるなら会話でしよう。拳は最後の砦だから……!!」



今まで何故否定をしなかった。そんな意見すら出せなかったのだ。
何故って…報復が恐いからだ。絶対に仕打ちが酷いことは間違いないしの彼だ。
何をされるかわからない。自分の身は自分で守るしかないのだ。

この非情な世の中メ!

あくまでヒーロー科に在籍しているけれど、精神の問題だけはどんなヒーローでも解決に導くことは難しいのだよ。齢15歳で学びました。



「なら、俺と付き合うか」
「……はい?」



何でそうなるの?何この展開。都合よすぎやしませんか?
疑いの眼で身体を引きながら轟くんを見つめると、その表情から何も読み取れない。
一体どんな目的と裏があるのか、探りを入れようにも変化ない顔しやがって、くそイケメンかっこいいぞ。



「同情ならよせや…これ以上ややこしくしたくない」
「そうか……俺は別に勘違いされてもいいけどな」



捨て台詞のように言われた言葉を拾わない馬鹿はいないだろう。



「いやいやいや!待て待て!!」
「なんだ、今授業中だろ」
「そうなんですけど、ちょっとお待ちください」
「なんだよ」
「いや、その……本当なんですか?」
「馬鹿だろお前」



轟くんの瞳が黒板から私へと移り、ゆらりと揺れた。彼の瞳には反射で私の姿がしっかりと映し出されている。
思わず、ゾクリと背筋から凍りそうになった。いやいや、待てよ。待てまて…!
慌てふためく心臓を落ち着かせようと胸を叩くが全く役に立たない。
何だ、どういう状況だ。どうした、轟少年よ。選択肢を誤ったんじゃないのか?
今ならまだセーブポイントで振り返ったっていいんだぜ?絶対に選択肢間違えただろ!間違えたって言えよ!
凍った箇所から熱が上昇していくみたいに、顔に集まってきて凝結する。どんな顔をすればいいのかわからない。今、自分がどんな顔をしているのかよくわからない。

授業中、担任の声が聞こえるのに耳はまったく役立たずだ。
机の上で丸めた手の上から重ねられてハッとして思わず顔を上げて、轟くんを映してしまった。

ああ、見るんじゃなかった……。



「好きだ、なまえ」
「ッ!!てめェ、この半分野郎!誰の手に出してんだぁ!」
「うるせぇな、お前のじゃないだろ」
「俺のモンに手出してんじぇねえっつんだろーがよ!」
「手じゃなくて口しか出してねえよ」
「表出ろ!」
「ああ、上等だ」



爆豪が業を煮やして机を蹴り出した。授業が終了を告げるチャイムと共に。
そこは真面目な爆豪だと関心するが、そんなことをしている場合ではない。

相澤先生から言われた言葉は「吐血するのがお前の個性か」と―――。