今年初の関西地方で観測された積雪。冷たい風が頬を掠めると、頬の熱が冷めていくのが解る。ブーツの上にふんわりと降りてくる雪の結晶が、溶けては舞い降りてくるその繰り返しをしている。
ジャケットの帽子を深く被り、マフラーをグルグルと首に巻き直して、手袋をしっかりと装着する。
完璧に防寒対策されているけど、寒いのは変わらない。足並みをそろえて、フェンス越しに背を預けて佇む。
白い息が吐き出されると空へ上昇する。それを辿るように上へ向けばはらりはらりと舞い降りてくるふわふわの白いわたあめ。
食べても甘くはないけれど、口を開けて食べてみようと試みる。そんなわたしの後頭部に、チョップが入ったのは数分もしない間だった。

『あ、いた』
「何やってんねん、自分」
『観てわかんないのか?雪食べようとしてた』
「ああ。その行動の意味を知りたかったんやけど」

ツッコミの手が入る。左手。包帯が裾から覗くから、何となくちらり観してすぐさま視線を空へと映す。

「雪はうまいんか?」
『冷たい』
「そりゃそうやろな」
『そうだな。思っていた通り冷たかった』

ほぉっと息を吐き出し、帽子が取れることも気にせず真白い水平線を眺めた。

「すまん」
『いきなりどした?』
「待たせてたみたいやな」

肩に積もった雪を直接自肌で振り払う白石。赤くなっている指先を凝視しながら、その手を掴む。

『手袋は?』
「ああ。急いでたから忘れてもうたな」

その言葉を聞くと何だか心がほこほことしてくる。左手に嵌めていた手袋を取り、白石へ渡す。つけるように促すと「おおきに」と言ってつける。その姿を確認してから、わたしも外気にさらされた左手を彼の右手に差しだす。そうすると、彼は何の躊躇もなくわたしの左手をとる。自然と繋がる手と共に、足も動き出す。真白い雪の上を足跡だけ残していく二つの足跡。

『あったか』
「自分冷たいなー。手袋してたんとちゃうんか?」
『ああーわたしも急いでたようだ』
「そうか」

どことなく素っ気なく言うと微かに笑いを含ませながら白石は、そっと繋ぐ手に力を入れる。

「そーいや、姉貴が言うとったわ」
『なんて?』
「女は冷え症なんやて。せやから、男の俺が暖めてやらんとな」
『……そっか』

何だか羞恥心だな。湧きおこる気恥かしさに何とかそっぽ向きながら言葉を告ぐ。
柔らかく笑っているのだろうな、と予測できる。クスクスと喉で笑う声が聴こえるから。
マフラーに埋める顔。だけど、何となく話したいからさ。どうせ、顔を出すのだよ。

『白石』
「なんや?」
『こたつでぬくりたい』
「せやな。みかんでも食うか」
『賛成』

寒いのに、寒いのにさ……君と繋いだ手だけは温かいんだよね。