ついてないって誰が決めた?

廊下を歩いていたら、担任にバッタリ会ってしまった。それはまあ、別にいいとして次が問題だった。
挨拶をして通り過ぎようとしたら、「みょうじ」と名前を呼ばれて何気なく振り返る。そこに映った担任の顔が何だか嫌な予感しか漂わなかったのは、本当の話し。

「すまないが、今度の生徒総会で使う資料をまとめてくれないか?」
『え………』
「先生、これから会議があるんだ。だからこれ生徒会室に運んでホチキスで閉じといてくれ、頼んだぞみょうじ!」
『え?!ちょっと先生?!わたしまだ許可を……っ』
「俺はお前を信じているぞ!」

期待するな―――――!!!!! 心の中で叫ぶけれど、相手に届く訳もなく。虚しく持たされたダンボールとわたしを1人残して廊下は静まり返った。
無理矢理持たされたダンボールはかなり重い。女であるわたしにこれを持たせるなんて、男の風上にもおけない人だな。
それにしても……何。この紙の量。半端ないんだけど。呆れ気味で、疲れ気味で嫌気がさしそうな程のダンボール光景。あははは、乾いた笑い声が響きそうだ。
嘆いても仕方がない。この場にわたししか居ないのだから…。半ば諦めながらダンボールを持ち直し歩きだす。
それにしても女の子に持たせる重さじゃないな。重すぎ……。
最初のうちは大丈夫だったが、だんだん腕が疲れ始めて、痺れて来た。それと同時に、足元がふらふらと覚束なくなる。そんな状態で廊下を徘徊していると、トン、と誰かにぶつかる。最初は壁かな?と思ったけどどうやら違う。だって、壁から声は聞こえないからだ。

「大丈夫か?」
『あ、れ?柳くん』

ダンボールが名前を呼ぶと同時に少し軽くなる。彼が支えてくれているからだろう。身体事わたしとダンボールを支えている柳くんの腕に一安心。

「何をしているんだ?」
『うん、先生に頼まれごとされてね』

視線を横へ逸らすと「ああ」と納得した声が届く。柳くんはとても空気を読むのが上手だな。

「不運だな」
『うん』

真面目に頷くと涼しそうな表情のまま爽やかに笑う柳くんが見えた。苦笑しながら再び移動しようと足に力を入れると同時に、ダンボールがわたしの目の前から消えてしまう。
思わず『え?!』と驚きの声を洩らすと、視線を上げた。だって、今まで持っていたダンボールは今は、柳くんの腕に収まっているから。
そのまま、彼は涼しげな微笑みを携える。

「生徒会室まで運ぼう」
『え。いや、重いからいいよ!』
「俺を舐めてもらっては困る。これぐらいの重さは大した事ではない」

軽々しく言ってくれるのは嬉しいけれど。本当に大丈夫かな?心配そうな表情で柳くんの横を歩くわたしに。
柳くんはどこか苦笑混じり笑みを零す。

『でも。わたしが頼まれた訳だし。いいよ』
「そう言うと思った」

息もつかせぬ切り返しに驚く。次の出方を知っていたのだろう。だけど。決してダンボールを譲る気配はなかった。
そして、立ち止まる柳くん。わたしも同時に立ち止まり、彼の顔を見上げる。目の前に広がる、瞳を閉じた柳くんの輪郭。
降りかかる優しげな微笑みに、頬が上気した気がする。

「お前に持たせるわけにはいかない」
「……お前は女なのだから俺に任せればいい」

わかったか?と言いきってしまう柳くん。それ以上、わたしが反論すること言い返すことも出来ない事を知りながらも。それでも彼はこんな言い方をしたところが、何だか悔しいけれど………。
桃色に染まる頬を隠すように視線を逸らす。

『わ、わかりました………。お願い、します』
「ああ。任されよう」

ああ。今日も雅な微笑みがお綺麗ですね。