いつまでも、いつまでも、この手を離したくないね。

朝。君が部室に来る前にいそいそと準備を整える。大慌てをしながら、的確に指示を出していく。

『ああ!デビルちゃんそこ違う!!右斜めだって』
「右斜めってどこっすか?!」
「こうだ」
『参謀サンクス!赤ガム料理!!』
「はいはいっとな。あ、紳士皿」
「はい、どうぞ」
「おい、詐欺師。クロスを膝掛にするな」
「ジャッカルがうるさーい」
「ふざけんな、ペテン死ね」
「死なない」
「嫉妬に狂った子に毒薬盛られて死ね。今すぐ太陽の光浴びて死ね」
「生きる希望をくれ…」
『ラスト侍。気にしなくていいから、飾り付け続行』
「うむ。了解した」

てんわやんわでバタバタしながら、準備を着実に進めて行く中。目的の人物が校門前にやってくる時刻になり。
わたしは腕時計で確認する。急いでエプロンを脱いで身だしなみをチェックする。
初めて履いたニーハイとネクタイをリボン結びにする。髪を解き、カチューシャを付けて。後ろへ振り返る。

「では、迎えに行ってきます。後の事は任せた!」

敬礼をしてわたしは旅立つ。その背中に敬礼を返しながら「 やったれ 」と声援を受ける。
青空、晴天の空の下。わたしは駆けだす。



※ ※ ※




校門付近で彼を見かけてわたしは一気に距離を縮めて、彼に飛びつく勢いで突進する。

『幸村――!』
「わっ!なまえ?」

彼の懐に抱きつくならぬ、飛び込み走り続ける足を止めた。取りあえず深い息を吸い込む。
顔を上げると幸村は微笑んでいた。

「どうしたんだい?君がこんなに朝早くから熱烈に歓迎をしてくれるなんて」
『なにもないけど、なにかあるんじゃないかな』

そう言うと、クスクスと喉で笑いだす。

「チェシャ猫かな?」
『じゃあ、アリスちゃんだね』

配役を決めながら二人で笑い合う。そっと距離を置いてくるりと一回りしてから、幸村に手を差し出す。

『では、アリス。謎を追究したいのなら僕の手を掴んで。君の知りたい答えを君の目の前で解読させてあげるよ』
「チェシャ猫さん。俺を案内してくれる?」
『喜んで』

わたしの手に重ねる白くて少し冷たい君の手を軽く、握りしめる。引っ張るようにスキップをしながら進みだすわたしに、彼は終始笑顔だった。



※ ※ ※




部室の前に着くと、彼にドアノブを回させる。君の驚いた顔を見たいわたし達は、今日も笑顔だ。

 Happy Birthday