佐々木排世は【半喰種】。それを承知でCCGは彼を起用してクインクス班を決せさせその指導者としての役職を彼に与えた。それが幸と出るか吉と出るかなど誰も知る由もない。
兄も一枚噛んでいるこの件について私が口を出すことではないから黙っているが佐々木排世は苦しそうだ。

一週間に一度の調整(メンテ)時間。CCGは喰種という特殊な者たちを相手にするため精神がおかしくなるものが後を絶たない。そのために臨床心理士である私の出番である。特にクインクス達には念入りの手入れをするようにアキラさんから指示は受けていた。

仕事なので文句は言わないが……。


『ササ』
「……特にないよ」
『特になくてここまで部屋が荒れるのか?随分と激しい夜通しだね』
「誰もこの部屋に来てないから!僕にはなまえちゃんが居るのに有り得ないから!!」


普段からとても気を配っているのか、整理整頓されているはずの室内は彼からは想像もつきづらいほど散らかっていた。クッションなど羽が出ている。フェザーとは贅沢だな。
診療の前に部屋の片付けを行うこととなったから、仕事とは前途多難。残業もまたしかり。


「ごめんね…」
『別に構わない。今日は早く来すぎた』
「何か急いでいたの?」
『……別に』


走っていたのを見られたのか?彼の窓辺には珈琲カップが置かれている所から推測するにそこから見物していたのだろう。ああ、丸見えだ。


「君が焦るなんて珍しいね」


感情とは、動くもの。心に刺激を与えて揺さぶられてから浮かび上がってくるものが感情である。
では、あの時焦っていた事を考え直すと……。


『馬鹿馬鹿しい』
「ん?」
『馬鹿』
「え、僕?!」


うぅ、と泣き真似をする彼に近づき頬に触れる私の冷えた手が彼を包んだ。温かな彼の体温に何をどうしたと言うのだ、私の頬に一筋の涙が伝った。
アノ人が泣いているのだ、きっと。そうに違いない。


「なまえちゃん…」
『此処に居て』
「え」
『居なくなったら承知しない…貴方は私が殺すんだから』


可愛げのない言葉なのに佐々木排世は瞳を潤ませて彼もまた泣いた。


「ありがとう……」


私の手首を掴んで彼は私のその手にすがりつくようにさめざめと泣いた。
男の人の涙はとても綺麗だな……。