俺は佐々木一等に劣等感を抱く。それは能力値の差だけではどうやらないらしい。
【CCG】に置いてのメンター(調整師)を務める。臨床心理士である彼女もまた、俺を苛立たせる要因だった。


『瓜江くん。強化したんだって?』
「ええ」


カルテを見ながら彼女は俺を見つめた。その真っ直ぐな程純粋な眼差し。だけど仄かに揺れる淡い復讐鬼。彼女はとてもアンバランスな人間だった。優しくも残忍で、そしてあの男を愛する…馬鹿馬鹿しい。正直に言って馬鹿馬鹿しい茶番劇だ。


『そう…安定してるけど、指導者に許可とらずに有馬特等に、というのはあまり関心しない。あの人は使えるモノは何をどうなっても利用する人だから…』
「(皮肉なものいいだな)義兄なのでしょう?あなたの」
『…偽装の家族でもあの人は優しい。でも仕事とプライベートは違うから』


トントン、と記載されていく。この人の奇麗な字が綴る、俺のカルテに。
手袋をはめ直し彼女が座っている机に手をついて見降ろした。


「あなたもプライベートでは佐々木上等と仲が良いですしね(反吐が出る)」


鎌をかければ彼女はペンを止めた。今まで流れるように書いていた文字はインクで滲んでいく。
ゆっくりとこちらを見上げた彼女の瞳の奥は、波紋する水面のように揺れていた。


「(ああ、心底腹が立つ)二人の関係は?」
『…別に。仲良くない。瓜江くんがゴシップ好きだなんて意外』
「そうですか?俺も意外でした…腸引きずり出したいくらいあなたに感情を抱くなんて」
『瓜江くん?』


無防備な彼女との間を詰めて唇に重ねた。冷えた感触と温かな口内。驚いたその瞳に映る俺が酷く人間らしい顔をしていた。
離れると案の定頬に乾いた音が響き渡った。


「やっと……見ましたね(俺を)」


ざまーみろ。