君はわたしの運貯蔵庫なだけです。


私には幸運EXがいる。常に装備していられないけど時間制限中ならそれは効果を発揮する代物だ。


「東堂東堂」
「ん?なんだ苗字。登れる上にトークもきれる、おまけにこの美形、神が三物も与えたこの東堂尽八に何の用だね」
「タップして」
「ん?」
「ここをタップして」


スマホを彼の眼前に差し入れ画面をタップするよう促す。東堂は私と画面を交互に見ながら言われるがままに画面を人差し指で触れると10連ガチャが回る。期間限定水着イベント。引かねばマスターじゃねえ!という意気込みでガチャ内容を確認していると眩しい程の虹色が画面から神々しく放つ。くっ……遂にキタかっっ!!確認するとお目当ての推しキャラ水着をゲットしたことを知る。その場でガッツポーズしながら飛び跳ねた。


「やったやった!ありがとう東堂!!私の推しがキタぁあ!!東堂愛してる!!流石神様に愛された男だよ!まったくっもう!!」
「あ、あいっ、って苗字っ!迂闊にそういう言葉は軽率に使うなど軽視しすぎではないか。仮にも俺はだな」


東堂の話も聞かずに東堂の手を両手で握り満悦だった。


「ありがとう東堂」
「む…ま、まあ…俺にかかればこれくらいどうという事でもないな。そんなに喜ばしいことなのかはわからんが」
「見る?私の最推し。めっちゃイケメンすぎて死ぬよ」


東堂に画面を見せる。液晶さえなければ抱きつきたいくらいにはイケメン英雄が映し出されていた。


「目が癒されすぎて死ぬでしょ。腰のラインとか殺しにかかってるよね。死ぬわ。いや死んだ」
「死にすぎじゃないか。いや、それよりも…俺よりもイケメンなのかこれは」
「はあ?私の推しは世界で一番カッコいいんじゃボケナス」
「荒北が乗り移っていないか」
「なぁにしてんの?廊下まで聞こえてキてんだけど」
「荒北くん。おつかされさま。みてみて、かっこいいでしょ」
「ああ、ソウネ。あり得ねえくらい人間離れした造形だわ」


荒北くんが席に着くと画面を見せて興奮冷めやらぬ私に同調してくれる。以外に親切なんだよね。顔は怖いけど。


「東堂に宝くじ引かせたら三億円手に入るかもしれない」
「それは大きく出すぎじゃナい?期待値上げすぎ」
「流石にそこまで運が振り切れているとは思えんが、苗字が望むならやってみるか」
「別にいいよ。そこで運使われたらこれからガチャ引くの詰まってるんだから推しが来なくなるでしょ」
「どこまでも欲望に忠実だな、苗字チャン」
「東堂はこういう時に使ってこそだと思うんだ私」
「苗字は俺を何だと思っているんだね。俺は君の為の運を備えている訳じゃないんだぞ」
「……私に引けっていうの?今朝も鳥のフンを頭にくらった私に」
「謝れや東堂。苗字チャンが可哀想でショ」
「俺の事は可哀想ではないのか!」
「それよかよくキャッチしたね鳥のフン」
「頭皮にまで達していたからシャワー室借りて洗ったんだよ」
「ああ、道理で髪の毛濡れてるンだ。まだ乾いてないじゃん」


荒北くんに濡れている髪を触れられる。ドライヤーは借りられなかったからタオルドライをしているがまだ湿り気を帯びているみたい。だいたい乾いたと思ったけど。自然乾燥はよしろ。


「タオルびしょびしょじゃん。オレの貸そうか。まだ使ってないし」
「いいよ。これから使うじゃん。この時期タオルないと辛いでしょ」
「別に。寮からとってくればいいだけだし」


鞄からタオルを取り出し、荒北くんが頭の上に被せようとしたところで別方向からタオルがかけられわしゃわしゃと撫でられた。


「うわぁああなにっ?!!」
「女子が自然乾燥で髪を乾かすものではないぞ苗字。ある程度水気を飛ばしてからドライヤーで乾かすものだ」


東堂のファンの子がドライヤーを手渡す。それをお礼を言いながら受け取りコンセントに挿すと温かな熱風が頭皮に充てられた。髪を撫でるように東堂の指が頭皮を掠める。何か想像していたよりゴツゴツしていない。


「ふむ。これくらいだな。後は香油で」
「いいよ。別に。乾かしてくれただけで有難いし」
「ならん。折角苗字の髪は綺麗なのだから。努力をしているのだろう?なら同等なことをせねば。君の努力につり合いがとれない」


横目で盗み見た東堂の顔は真剣で、からかって言っている訳じゃなく。でも柔らかな表情をするものだからなんか調子が狂うな。一本一本丁寧に香油を髪にさし、指通りがよくなった髪になると東堂は「うむ。これでいいだろう」と何処か満足げにそう呟く。


「ありがとう。東堂って女子力高いよね」
「………君が足りないだけだ、うん。手を洗ってくる」


東堂が席を立ちあがり廊下に出ていく姿を見送る。心なしか元気がないような。どうしたんだろうか。


「あ、タオルどうしよう」
「え、そっち?苗字チャンさ。天然って言われない?」
「いや、言われたことないけど」
「じゃあ鈍感だ」
「ああ、それはよく言われる。何を思ってそんな事言うんだろうね。結構鋭いと思うんだけどな」
「そういうところだヨ」


荒北くんが「カワイソウ」と言っているがその真意はわからない。でも髪に触れると細くて繊細な指を思い出し、ちょっと気持ちよかったかもと思うと何か知らないけど心臓が呼吸したような気がした。




(はあ……俺の気持ちに気がつかない苗字の鈍さはなんなのだ)
(お前のアプローチがヘタクソなんだよ)
(だが、そんな鈍い所もかわいくてずっと見ていたいと思ってしまうのだ)
(……キモチわりぃなお前)
(荒北に言われたくはないな!というか荒北。よくも苗字の髪を無断で触り挙句の果てにタオルまで貸そうしたな!ならんよ!自分の匂いが染みついているタオルなんか渡したら匂いが移ってしまうだろうが!)
(わかってて渡したんだヨ)
(……へぇ?)