真波くんとカラオケに来ました。


正直、行きたくなかったけれど(ファーストキス奪われた為)推しのために来ました。全ては推しのため。私の好きな作品とコラボしているカラオケの抽選に当選してカラオケボックスの予約が出来て、推しに囲まれる絶頂を味わいながらコラボドリンクを頼むとランダムでコースターを20種類の中から一つ貰えるとかそんな事になったら真波くんと来るっきゃないだろ!!!と判断したので来ました。言っておくけど真波くんとなんて全然行きたくありませんでした。でも推しのために来ました!!!!!


「先輩。そんなに言い訳を並べていたらまるで俺と行きたいのを隠しているみたいに聞こえちゃいますよ」
「ポジティブか」


室内を思う存分撮影し満足したのでソファーに座ると何故か隣に座る真波くん。


「離れて。隣に座るなら帰る」
「目的を果たしたら速攻帰るとか先輩。男に奢らせようとする女の人より性質悪いですよ」


一人分の席を開けて座りなおした。いや、それでも近いから。10人入る部屋に二人だけだから、めっちゃ空いているから他にも席。だけどここでそんな事言えば「先輩。誘ってるんですか」とか乙女ゲームのカウンターパンチみたいな解釈で行動に起こされるのでお口にチャックをする。


「でも先輩って少し抜けてますよね。だって密室で俺とふたりきりなんてもう何でも許された感じですよね」
「捉え方がフルスロットルすぎだろ。大丈夫。この後、福富くん達が来るから」
「ええ〜〜やっぱり誘っていたんですね。先輩ってばひどい」


微塵にも思ってないだろ。そんな可愛い声出して、可愛い顔しながら内心喜んでいるんだろサイコパスめ。真波くんがロールキャベツ男子の頂点だってもう知ってるから。貞操の危機だけは回避させてもらった。
さて、折角カラオケに来たのだから何か歌おうかな。機械をいじっていると一人分の距離を詰めて肩口から覗き込んでくる真波くん。君の記憶力どうなってるのかな?


「先輩。何かリクエストとかあります?」
「別に。離れてくれたら何もないよ」
「先輩の笑った顔、可愛いですね」
「人の話を聞いてお願いだから」
「ん〜じゃあ俺。先輩の為に練習してきた歌があるんで、それを披露しますね」


全く持って己の道を行く真波くんの行動に今更何も文句はないが、苦言くらいは進言してもいいだろうか。勝手にしてくれ。と真波くんに手渡し、私はドリンクを飲み始めた。コラボドリンクだと侮っていたが意外に美味しい。ストローで飲んでいると何処からか生唾を飲みこむ音が聞こえた。マイク入ってるよ真波くん。


「じゃあ先輩。俺を好きになってくださいね」
「本音がだだ漏れてるぞ思春期くん」


三次元は厳しめだから。もう「これは恋かな」とかそんな憶測で測らないから。確証ない限りは軽率な発言を控えるから。私は腕を組み臨戦態勢をとったが、流れてきたイントロで直ぐに臨戦態勢は崩落した。
こ、これは……!告白実行委員会の告白ライバル宣言だ………!!
歌いだす真波くんの歌声はくりそつすぎて手を合わせて合掌した。ありがたや、ありがたや……耳が潤う。ああ……生歌を聞いているようだ……って練習する必要ないだろ。この声優さんと真波くん声質同じじゃないか。寧ろそっくりだよ。声が似ているんだから歌声も似ているし、歌い方を真似するだけでもう本人じゃねえか。


「真波くん……」


またからかわれた。と遠い目をすると歌いながら近づいてきて壁に手をついた真波くん。視線は逸らさずソファーに膝を鎮めて真波くんに見下ろされる。あ、退路を断たれた。と気が付いた時には真波くんの檻に囚われてしまっていた。


「恋に落ちたのはあなたのせいです。そんなに見つめて0%が分かった上で宣戦布告」


ずるっと壁についた手が滑り落ちてきて顔の真横にまで下りてくると、歌いながら顔を近づけられ、首で逸らす。でも眼前に晒される髪に隠れた耳を探し当て髪を耳にかけられる。吐息交じりにその耳殻を濡らすように歌い続けられた。なにこれ拷問じゃないですか。歌詞は可愛いのに、なんだこの卑猥なライブは。こんなカラオケ初めてですよ。しかも失恋曲でもあるし、恋に頑張る歌詞でもあるのに陥れようとしてくる行動とは似つかわしくない。というか太腿を膝で擦られていた。毛先を指に巻き付けてとても嬉しそうな声が聞こえる。弾んでいるからわかる。頬に指先が伝い顎まで滑ると親指が顎の窪みに触れ、クイっと一気に首が正面へ無理矢理向かされた。顎を持ち上げられたため必然的に真波くんと目が合う。


「全部全部好きなんだ」


これは自然だと言いたい。生理現象だって。顔がいい男に真正面でそんな事歌われたら照れてしまう。恥ずかしい。顔が熱いし上せそう。眉を寄せてしまう私に真波くんは柔らかく笑んでいた。


「あ、ここからはあまり歌いたくないですね」


歌の途中で真波くんはマイクの音源を切ってソファーの上に置いた。顎に固定していた手を頬へとずらし空いた片手が太腿に触れた。


「ちょ、っと真波さん?放棄するのはどうかな」


この空気を打破しようと話題を振るが真波くんは下唇を舐める。


「だってこの先の歌詞は、恋する人の恋を応援するじゃないですか。俺は嫌だよ。そんなの。俺が欲しいのに何で応援しないといけないんですか。自分のものにしたいのなら勝ち取らなきゃ。どんな手を使っても。自分のすべてを駆使して攫わないとだめですよ」


耳の後ろまで指が伸び固定された。動けない。太腿を撫でていた指先がスカートの襞へと移り指の腹がつつっと中へと侵入してくる。


「ちょ、まな、みくんっ!こういうのは同意なしでしないって言ったんじゃなかったっけ」
「言いましたね。でも俺が密室に誘ってついて来たんだから、それって許可したってことでしょ?先輩。世間一般論から言ってもついて来ちゃった方が悪いんだよ。責任はとってあげるけど先輩もそろそろ俺の気持ち受け止めてよ」


唇に触れる吐息。やばい……浮かされる。艶やかな甘美が肌に落ちてきて身体が震えた。目の淵に生理現象の涙が浮かぶ。


「あのね。ここで泣いちゃうと俺にとっては興奮材料にしかならないよ。先輩って本当に初心で、愚かしくて、可愛らしいよね」
「ま、まなみくんっ。お、おちつこう。ね?か、かんがえるから、きみのこと」
「うわぁ、嬉しいな。ありがとう先輩。でも既成事実作ってからね」


うわぁぁ…逃避作戦が突破された。しかもさりげなく人語じゃないもの聞こえた。非道すぎるだろう。太腿の付け根まで指が触れたのか少し驚いて「んっ」と声が出てしまった。


「先輩の声、かわいい」


唇が近づいてくる。残り3センチというところで盛大に扉が開いた。


「苗字チャン。教えてくれた場所が間違ったヨ。おかげで遅れちゃ……」
「間に合ったんじゃないか靖友」
「真波。特別に教えてやろう。山神が怒るとどうなるか」


東堂が綺麗な笑顔を浮かべて真波くんの首根っこを掴んで扉の奥へと消えてしまった。ソファーに手をついて息を乱した。呼吸でも止めていたみたいに過呼吸である。


「はあ、はあ、はあ……お、遅いっ。もう少しで処女喪失するところだったじゃないか!」
「悪かったって。そんな叩かないでヨ。大体苗字チャンが間違った場所教えたのが悪い」
「ここの場所添付して送ったよ?」


上着を脱いで新開くんが肩にかけてくれた。


「いや、まあそうなんだけど。真波に教えてもらったんだろ?その場所」
「うん」
「その場所が間違えていたんだ」
「あんだって?」
「苗字チャンの所為じゃないよ。あの不思議チャンが元凶だから。ったくしつこい奴に好かれちゃって可哀想だネ」


荒北くんに頭を撫でられる。若干涙が溜まっている瞳が零れそうになるので袖口で拭く。
隣に新開くんが座り足を組む。もう片側には荒北くんが座った。


「それで今回は何をされたの?」
「スカートの中に手を突っ込まれた」
「……ちょっと加勢してクるわ」
「いってらっしゃい」


荒北くんが立ち上がり、それを見送る新開くん。東堂たちが消えた扉へと姿を消す荒北くん。それもつかの間、新開くんの隣に福富くんが座った。


「すまなかったな苗字」
「いや、まあ……己の欲に負けてほいほいされたのが悪いってわかっているからそんなに責められないよね」
「そこは自覚しているんだな」
「相手は選ぶことだな。あまり二人きりにならないよう注意してくれ」
「うん。そうだね……パンツ引きずり降ろされるかと思った」
「………」
「名前。どこまで真波の手が侵入したの?」
「付け根かな?触られた事ないからちょっとビックリして変な声がでた」
「え?ここ?」


新開くんの手がお構いなしにスカートの中に入り、付け根部分に触れたので驚いて口を結ぶと福富くんが無言で手刀を新開くんの後頭部にいれていた。


「すまない苗字」
「首の骨折れてない?まあ折れればいいと思うけど。福富くんも大変だね。変態達を調教するなんて」
「いや、大したことではない」
「寿一?俺たちが変態であることを認めないでくれ」
「事実だろ。次やれば折るぞ」
「物騒だな」
「優しいよ福富くん」


それから戻ってきた真波くんは頭の上にたん瘤を三個重ねていた。


「ごめんなさい先輩。ちょっと暴走しちゃった」
「次やったらお前のバイクのサドルを頂くからナ」
「ついでにホイールも貰っておく」


バイクを人質に取られた為真波くんは笑顔のまま大人しく私から距離のある席に座っていた。