君は、虚像を愛する



『追加注文してくるね。かっちゃんは何かいる?』
「いらん」
『じゃあ見張り宜しくね』


荷物を手で叩き、名前は席を立つ。掌に顎を乗せ窓辺を見つめながら名前がカウンターに並んだのを確認すると、ポケットの中にしまっていた個包装を取り出した。年中行事の度に贈らり、贈られ続けてきた謂わば習慣のような癖の所為だと爆豪は舌打ちをする。贈り物を選ぶだけで二か月くらいかかってしまう事さえ彼には隠したい要素なのだ。母親に「今年はネックレスでも贈ったら?」と言われ「はあ?ババアの意見なんざ聞いてねえんだよ」と即座に突っぱねたが「あんたそろそろ素直に白状してきたら」と言われ、早口に全否定をするので精一杯だった。

学校帰りに本屋に立ち寄り参考書を読むふりして雑誌コーナーで[意中の女性に贈ったらNG集。これを渡したら嫌われちゃうぞ]という特殊を読んでいる男の隣に立ち盗み見ながら脳内に記憶した。アクセサリー類は贈り物として適してはいるが意味を知られてしまうと己の沽券に関わるとプライドが妨害する。だが身に着けて欲しいと思うのが乙女、いや男心。意味がなるべく含まれていないが、身につけてくれる、都合の良い品を探した結果。辿り着いた先が髪留めだった。昔は短かったのに、最近は長く伸ばしているのか艶やかに光る白髪に色香を感じる爆豪。色は迷わなかった。大きなリボン型のオレンジ色一択。これで通用するキレ顔で店員に突き出し、店員は若干怯えながら包装していた。

直接渡したことがない爆豪は手の中でソレを持て余す。

ポストに入れたり、机の引き出しに入れたり、下駄箱に入れたり、と間接的に渡す技法を行っていたが今年は「乙女か。男なら玉砕覚悟で渡してこいや」と母親に言われてしまった手前「渡すわ!玉砕しねえわ!クソババア!!」と断言した手前、直接渡さなければならない事に苦悩する。

額に指先を添え爆豪は店員に注文をしている名前を見やる。女にしては背は高く、全体的にスレンダーな体型をして、その横顔は誰もが振り返る程に美しい造形をしている、と思うと爆豪は心の中で称賛を並べる。幼馴染というアドバンテージを持ちながらもその実。彼は彼女に胸の内を明かせない。爆豪勝己程の男でも苗字名前という完璧なまでの才女にはあと100歩程足らないのだ。

だが、彼の中で贈り物を渡さない。という選択肢も同時にない。
向かい側に置かれたその無防備な鞄の口を見つめながらなけなしの素直で。


『お待たせ。いやぁ〜優しいお兄さんでね。クッキーをおまけでくれたんだ』


ドーナッツの皿の端にクッキーが二枚乗せられていた。それを目視しながら爆豪の瞳には静かに燃える感情がふつふつと水面下で泳ぐ。
名前の後ろ。カウンター越しにこちらを見ている男の店員に爆豪はその目つきの悪さで眼光鋭く睨みつけた。


「余計な虫を増やしやがって」
『冬に虫はいないんじゃない?』


意味がわかっていない名前の言葉を真に受けず爆豪は再び、興味のないフリをして窓の外へと視線を移す。掌に顎を乗せ、テーブルに肘を置きながら、鏡の中の彼女をそのサンザシの瞳で眺めた。