鏡花水月


もし、俺があいつのことを好きだとして…見込みも無い恋を続ける覚悟があるのか?
それは、毎日している自分への自問だった。
携帯が点滅する。それが日々の日課になりつつあった。誰でもないホタルのグラデーション。その指定色が誰だが判れば、俺は携帯を手に取り中身を開く。

【 あの人、喜んでくれた。ありがとう 】

嬉しくも無い感謝の羅列に、投げようとした携帯を想い留めて、返事を送った。それは当たり障りも無い定型文のようで、まるで心の籠ってない内容だった。白々しくも語るこの文章は、どこまでも逃げているように思えた。
伝える気もない、でも諦める気もない。馬鹿みたいな自分。


「無謀」


まさにこのことのために存在している言葉だった。ベットに放る携帯をそのままに窓辺へ行き、窓を開け放つ。夏の風が生温く、肌を冷やす。夜空には星達が鈍く輝く、この陸で、あいつは何を想ってこの月夜を眺めているのだろうか、考える事はいつも、あいつのことばかり。呆れて物も言えない。
二度目の溜息を吐きだしながら、窓辺によりかかる。
奥から似鳥の声がする。「 松岡先輩 」聞き慣れないフレーズに振りむく事もせず、生返事。


「風邪ひきますよ?」
「ああ」
「……先輩。携帯点滅してますよ?」


タオルで髪を拭きながら、似鳥は言う。その知らせを無視出来る程余裕などない。面倒そうなフリをしてカーテンを揺らしながら似鳥から携帯を受け取った。画面を開けば、そこには彼女からのラインが届いていて………。


【 月が海に漂う幻を見つけて、ふと、松岡くんを思い出したの 】
【 綺麗な満月の今日、松岡くんも空を見上げていますか? 】

「………っ」


下唇を噛んだ。恥ずかしくなるほど嬉しくて、それでいて、無性に泣きたくなって、どんな顔をすればいいのかわからなくなって…それでも、彼女もこの夜空の下。
同じように月を眺めて、星を見上げていたのだと判れば、後は―――笑うしかなかった。


鏡花水月