アイスキャンディー


『謙也―アイス買って?』

コンビニの前で立ち止まり冗談で強請ってみる。いつもと同じように「 アホぬかせ 」とか言われるんだろうなって思って心の準備をしていたのに、謙也は。

「ええで。何が食いたいんや?」

そう言って、コンビニのドアをあっさりと開けてわたしを先に入れる。可笑しな謙也の発言に疑問を持ちつつアイスコーナーでどれにしようか悩んでいると、オレンジの籠を持って謙也が隣にやってくる。

「なんや、どれにするか決まったんか?」
『うーん。キャンディーアイスにしようかみぞれにしようか悩んでる』
「そうかいな」

そう言っていつも急かしてくるのに、のんびりと後ろにあるデザートの棚を物色していた。
何かが可笑しい……。
顎に指を置き考えるも、結局アイスの事で頭がいっぱいになる。

『やっぱみぞれにしよう』
「いちご味か?」
『うん。謙也は?』
「俺はこれ」
『え』

それは、わたしが今まで悩んでいたオレンジのアイスキャンディーだ。
それを何の躊躇もなく籠に入れて、会計へ向かう。
彼の背中を見つめながら隣で会計のお兄さんの声を聴いていると、籠からアイス以外の名前が読み上げられた。
それは、水と二本のポカリスエット、みかんの缶詰、フルーツゼリー…と何だかわたしの好きな物ばかり挙げられた。
首を傾げていると、謙也が会計を済ませてビニール袋を片手に下げて「 行くで 」と促す。
傍まで行くとまたドアを開けて待っていてくれる。
買ってもらったみぞれの蓋をあけて歩きながら食べているとまた不可解なことが起こる。
一緒に歩く速度も歩幅も全て統一されていることに、驚きしかなかった。

『あのさ』
「なんや?」
『…拾い食いでもしたの?』
「ハァァ?! なんやそれ?いきなりなんや」
『いや、だって…。いつもより遅いよ、歩く速度。それに奢ってくれないし。しかもわたしの好きな物ばっか買うし、やけに優しいし。こんなの………謙也じゃない!!』
「やかましいわ!! なんじゃ、さっきからお前は」
『だって……』
「だってやないやろ。ったく……人が折角心配しとんのに」

小声で聴こえた最後の言葉にザクザクと開拓していたみぞれのカップからスプーンが離れる。その音に気がついて謙也が立ち止まる。

「溶けるで」
『……心配って』
「名前、今日昼飯食わんかったんやろ。今の時期で食わん言うたら夏バテちゃうかな思うて、お前の好きなもん買ったんや」
『…それ、誰に』
「お前の友人に決まっとるやろ。朝から可笑しな思ってたから聴いたんや。あ、迷惑とか言うんは受付んからな」
『………』

スプーンをみぞれのカップの中にさして、謙也の隣まで行き。再び食べだしたわたしを見て、謙也は嬉しそうに微笑んだ。

「まだあるから、お前の好きなもん」
『うん』
「食いたいもん食うたらええ。食べられることが先決や」
『うん』

ザクザク氷の音を鳴らして食べる。こういう時、気がつくものだよね。
ゆったりとした歩調で、日陰を通るわたしと日向を通る彼がいた。

彼の優しさに気がつく時が病気以外で増えたらと、願うばかり。