01

 療養。
 療養って、何をすればいいんだろう。

 縁側からぶら下げた足を、ぷらぷらと振った。
 つま先が庭の土を擦って、乾いた茶色が足を汚した。
 素足には冷たい風だった。

 そのまま、後ろにぱたんと倒れ込む。

 そんな薄着で何してるの、眠いなら中で寝なさい。
 そう声をかけてくれる人も、いない。

 思えば、入学式の時から浮いてたんだろうなって思う。
 だって自分でもそう思ってた。

 くるくる巻いてみるとか。色を変えてみるとか。
 そんな発想すらなかった私の髪は、黒くてぼさぼさのままだったし。
 切るだとか、折るだとか。
 考えたこともなかった私のスカートの裾は、膝よりも下にあった。

 誰も教えてくれなかったんだもの。

 毎週月曜日の、夜九時から始まるテレビドラマは欠かさず見なきゃいけないよって。
 女の子が人前に晒す肌には、産毛が生えてちゃいけないんだよって。

 そんなの、私は、聞いたことがなかったんだもの。

 湿った何かが足を濡らして、私は体を起こした。
 雪だ。
 寒いわけだ。

 きんきんに冷えてしまった脚を抱え込む。
 風邪、引いちゃう。

 うちの村からねえ、こんなに賢い子がねえ。
 将来はお医者さまになりたいって言ってるんだって。
 すごいねえ。
 あんな都の高校へ上って、偉いねえ。
 おばあちゃんも鼻が高いでしょう。

 ふ、と、無意識に笑ってしまっていた。

 明るくっていつもクラスの中心にいて、みんなに慕われていた男の子の顔を思い出す。
 身の程知らずだったのよ、って、本当にそう思う。

 想いがばれてしまっていたこと。
 面白おかしく、色んな人に話されてしまっていたこと。
 身の回りのものがなくなったり、壊されたりしたこと。

 逃げ帰った私を迎えたのは、雪よりも白くて冷たい失望だった。

 ちょっとね、クラスに馴染めなかったみたいで。
 本人もしんどいって。
 心がね、疲れちゃって、風邪を引いてるみたいな状態なんです。
 おうちの方でね、ああ実家の、村の方でね。しばらく、療養するということで。
 そういうことで。

 感覚のない足の土を払って、ゆっくりと立ち上がる。
 暗い部屋の隅にあった分厚い靴下を拾い上げて、履こうとして、バランスを崩した。
 畳の上に転がる。脚立の脚で顔を打ちそうになる。

 吐いた息は白かった。

 雪が、しんしん降っている。
 明日はきっと、積もるだろうな。
 雪かきをしないと。
 庭の細い木の、最後の一枚だった葉が落ちた。


しろくにじむ


百人一首WEBアンソロジー 「さくやこのはな」参加作品

二十八番(源宗于朝臣)
「山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば」



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