2016


▽01/04
変わってしまう。君が、変わってしまう。わかってしまう。君が死んでしまう。僕の好きな、君が。

▽01/07
「君のことが、好きだからだよ」額にひとつ、キスを落とす。瞼に、鼻筋に、唇に。柔らかく口付けて、髪を梳き、頬を撫でる。見つめ合ったその瞳が僕の全てだなんて、生ぬるい嘘は言えないけれど。「好きだよ。それ以外に、何か理由がいるかい」刹那を君にあげよう。

▽01/13
今こそ、今こそ、教えておくれ。ひとりぼっちの僕の手を引いて。生きるべくして生きる、世界の美しさを。死ななくていい、その理由を。

▽01/22
変わらない一点だけを見続けられる、誠実さや純粋さや強さが私にあったなら、どんなによかっただろうか。生きている、ことを理由に、ふらりふらりとあちこちに足跡を付けて回った私の、なんと愚鈍なことだろう。ただ、そこに。在り続ける、それだけでよかったのに。それだけが必要だったのに。

▽01/23
肉を裂き骨を断ち血を引き摺って手に入れたものになんて、何の価値もないと言うけれど。平和と慈愛が、幸福のすべてだと言うけれど。刹那の熱が、吐息が、命のにおいが。グロテスクな魂が求めて引き寄せたそれが、その生々しい絶望と希望だけが、僕が君に捧げたいただひとつの愛だった。

▽01/27
「何しているの?」「わくわくしているの」

▽01/30
寒い寒い冬の日、生娘のように頬を染めて、こんなにも喉が乾く理由。

▽01/31
汗ばんだ脚に、冷たい海水が気持ちいい。水平線すれすれに浮かぶ太陽を目指して、じゃぶじゃぶと進む。雲が、赤くて青くて白かった。風は生ぬるい。繋いだ君の手もまた、熱っぽかった。生きている。まだ、生きている。けれど。夜が来る。朝は来ない。夏が終わる。秋は来ない。君と共に、永遠を迎える。

▽01/31
始まりの季節だよと君が言うから、僕たちもこれからだよと返す。上手にできるかなと君が言うから、ちゃんと調べたから大丈夫だよと返す。一人前の、錠剤の山を目の前にして、僕たちはゆったりと微笑んでいた。桜が散るの見れないねと君が言うから、見なくていいよと返す。さあ、ふたりで、行こうか。

▽02/07
すうっと自然に漏れ出たひと声が、遠い国の、高い山の、厚い氷の下、凍ったままの種を呼び覚ますような。もうずっと、そういうことを夢見ている。

▽02/08
死んでしまいたくなって漸く、生きていることに気付いた朝。

▽02/09
「あなたの理論はとても正しい。とても。でも、そんなこと知らなくったって生きていけるわ。ねえ。けれど。あなたの暴言が、いつかの夜の、あの子を殺すかもしれないのよ。ねえ、やめてよ。やめてよ人殺し。あの子を傷付けないで。正しさなんて、正しさなんてどうだっていいわ」

▽02/11
美しくなんてなれないよ、レディ。風は鈍色だし、雨は墨色だ。

▽02/12
ひどく疲れた顔をしたその男は、魔法が解けてしまう、そう小さく呟いて、夜の街に消えていったのでした。

▽02/15
ラジオのノイズ、犬の涙。僕のことが嫌いですか。

▽02/15
真っ赤な鼻、真っ赤な頬、夕暮れを揺する君の泣き声。

▽02/16
太陽が君臨する屋上、君は確かに笑っていたし、僕はそれでとても誇らしい気持ちになったんだ。

▽02/23
私があと十歳若かったら、きっと飛び降り自殺をしただろう。私があと五歳若かったら、リストカットくらいはしたかもしれない。けれど、大人になってしまった私にできるのは、明日が来ないようにと祈りながら眠りにつくことくらいだ。世界の破滅は望まない。ただ、静かに、私が終わる夢を。

▽03/01
幸せの約束も、不幸の契りも、もう、交わせる人は誰ひとりとして残っていないのだ。

▽03/17
「僕のことは空気だと思って良いから」そんなふうにしか慰められない不器用な君に、「空気なんだから、文句言わないでね」と抱きついた夜。

▽03/17
知っていた。君が、ゼロの距離を怖がっていたことを。手の届く位置に居る相手を求めながら、触れられないことを望んでいたことを。それでも、僕が強引に触れると、その瞳が、不安と、それから期待に揺れたことを。……知っていた。最後には僕の下で啼くことになる、君のことを、よく。

▽03/19
「ぴぃぴぃ喚いてんじゃねえよ鏡見ろ、そんで絶望しろ。希望なんて冷静さの欠片もありゃしねえ」「絶望したら死んじゃう」「じゃあ死ね。冷静になってまだ死にたいんなら死ね、すみやかに死ね。ただし夜はやめとけ」「優しいのか優しくないのか、わかんないね」「俺は喚く馬鹿が嫌いなんだよ」

▽03/20
銀の戦士の咆哮が闇夜を切り裂き、そうして堂々たる黄金の朝を連れてくるのでした。――曰く、世界で最も太陽の似合う男。

▽04/02
空が渇いて、剥がれ落ちてくる春。今日もどこにも、行けやしない。

▽04/02
「闇を恐れなきゃならないほど、光溢れる人生を歩んでいるわけでもないもの……」

▽04/08
ああ、お前が、お前こそが私の未練なのだ。

▽04/11
たぶんもっと遠くに居るし、おそらくもう届かない。それでも、その距離が、好きだとか。そんな強がり。

▽04/23
もっとあまくてもっとやわらかくて、もっとわくわくすることをきみと。

▽05/03
夜空と深海の中間地点、その静かで冷たい闇の中で、確かに君だけが僕に触れていた。あついあつい、手のひらだった。

▽05/05
たぶん、おそらくだけれど、真っ先に泣くのは君だ。

▽05/19
まだ、夢を見ていたい。

▽05/26
永遠になんてなれない、君が好きだよ。

▽06/10
私はゴミになりたかった。裁きの炎で焼かれるゴミではなく、誰にも拾われず捨てられず、何の役にも立たず、ただそこにあるだけ、誰も気にも留めないような、そんな。果たしてそれはゴミなのかと問われれば、私はゴミなのだと主張はできる程度の。願いを持っているだけの。ゴミに。

▽06/10
僕はバクだ。食べるよ。刹那の涙。さようなら、さようなら。

▽06/10
深海の泡のような、真夜中の電波のような、幻想と現実の狭間より。ハロー、ハロー。ようこそ、こちらへ。

▽06/10
きみのこころは、あまい。

▽06/10
「僕が死んだとしたら、ってあなた話すけれど、それ、その後に、私に生きる力が残っていると思ってるの?」

▽06/13
ヘッドライトが照らし出す雨粒の寿命。

▽06/23
世界は、美しくなんてないけれど。美しくなんてないけれど、でも、君がいる。

▽06/24
「空気はひかるし、花はわらうし、風はかおるでしょう。あなたが生きている、世界だからよ」

▽06/26
それでもきみは、戦うのだろう。そうでなくては。そうでなくては。

▽07/12
傷のないものだけが美しいのだと信じていた僕の夢を、幻想を、拒絶を打ち砕いたのがその傷であり、彼女の存在だった。

▽07/15
「ここではきものをぬいでください」布切れ一枚が遠い世界で。

▽07/25
叫んだ声はもう届かない。きみは虚無に消えた。ハッピーエンドになると信じて疑わなかったのは僕だ。

▽07/25
虚言癖のある君が好きだった。君の嘘と心中してしまいたかった。

▽07/31
ダイアの指輪よりも、ルビーの心が欲しかった。真珠のネックレスよりも、サファイアの瞳が欲しかった。欲しかった、のに。

▽08/19
ひび割れたきみのこころに、そのすき間に忍び込みたいけれど、ああ、やはり、僕では沁みて痛いのだろう。

▽08/19
「ささくれから花が咲けばいいのに」表情の見えないきみの横顔。

▽08/19
伝線するストッキング、蔓延する感染症、切っても切っても癒えない君の傷。

▽08/20
飲み込んだ言葉が、食道を通りさらにその下へと落ちていく。胃袋はやがて消化しきれなかったそれの重さに耐えかね、破裂し、流れ出たものを誰かが芸術と呼んだ。

▽08/20
言葉が飽和する夜は、側に居させてください。貴方のぬくもりが、私の熱が、きっといちばん雄弁でしょう。

▽09/21
その柔らかな感性を喰い千切ってやりたい。言葉を亡くしたきみが泣きじゃくる姿を、僕は、

▽09/24
愛は誓うものじゃないよ。さあ、いま、これから、謳ってみせようか。

▽09/24
好きだなんて言った覚えはない。でも、好きじゃないとも言ってないわ。言ってないのよ。

▽09/24
心臓に爆弾があるの。起爆スイッチ、あなた。

▽09/25
不憫なことに、愛している。残念なことに、幸せだ。

▽10/04
その時、何かがぐわっと心臓の裏から溢れ出したような感覚がした。苛立ちにも似た、大きな波だった。今思えば、あれは恋だった。あれが、恋だった。

▽10/13
好きな人には拒絶を。嫌いな人には微笑みを。嬉しいときには素っ気なく。悲しいときにはにっこり笑って。そうして偽った先には、あの子がいるかしら。私あの子に、なれるかしら。なれるかしら。

▽10/28
「信じるということはとても大切なことよ」そう言って死んでしまった君を僕は信じてるし、おそらく一生許さないのだろう。

▽11/15
愛に致死量があることを、君は知らない。

▽11/18
「太陽を見続けていたら、誰の影からも学べないわよ」

▽11/22
「嘘はレディの嗜みよ?」造花のように笑う君。

▽11/26
喉を、ぐりりと押し込まれたような感覚がした。歯を食いしばる。視界が滲んで揺らぐ。私に、それを溢れさせる権利なんてないはずなのに。くやしい、だなんて。

▽12/03
私はあなたのことが好きなのですが、あなたは私の好意に理由を探すのです。拒絶するための理由です。あなたは無知と幸福が恐ろしいらしいのです。でも、私はあなたのことが好きです。ただ、好きです。

▽12/13
永遠なんてないけど、私だっていつか死ぬし、地球だっていつか滅びるけど、でも、でも、言わせてよ。私、ずっと、永遠に、あなたが好きだわ。

▽12/15
冬の妖精が言った。「美しさというのは、見る人と見られる人の間に起こる愛の共鳴のことよ」。アイスグレーの服を着た、美しい妖精だった。

▽12/30
「年齢とか性別とか、嘘とか本当とか、あまり、どうだっていいかなって。あなたは確かにそこにいて、それで、私の目を見て、話してる。……それだけで、十分だよ」





- チョコレートの快楽 -