02
探し物はいつまで経っても見つからないままだった。
というより、自分が何を探しているのか、もはや何もわからなくなっていた。
だんだんと生理の周期がおかしくなっていって、母には産婦人科の受診を勧められたし、妹は私を心配して怒った。
私はぼんやりとそれを聞き流した。
ほとんど毎日のように、夜になれば繁華街のホテル通りに足を運び、知らない人に抱かれ、日付が変わる前に家に帰った。
高校生になって遊んでくれる人は増えたし、私は何不自由なく夜伽を楽しむことができた。
それなのに、いくら体の穴を埋めても、心の穴は塞がらなかった。こんなにもいろんな人と知り合って、こんなにも自由で、こんなにも好きに生きているのに。
心はからっぽのままだった。
「へへ、可愛いお嬢さん。いくら?」
日課のようにホテル街を散歩していると、焦点の定まらない目をしたお兄さんが覚束ない足取りで近づいてきた。今日は制服を着ているから、間違いなく未成年に見えると思うのだけれど。
だらしない服装。大きなカバン。ほとんど機能を停止しかけていた危機感というものが、頭の中で警笛を鳴らしていた。けれど。
今更、断る理由もなし。
もうどうなってもよかった。この怪しいお兄さんからはアルコールの匂いはしなかったし、多分お酒よりももっと危ない何かに酔っているのだろうと想像はできたけれど、別にそれでもよかった。
ふらふらと手を引かれ、ふわふわとついていく。
私は致命的に壊れてしまいたかった。
「おい。何やってんだ」
気付けば、スーツ姿のおじさんが目の前に立ち塞がっていた。
ゆらゆらと上がる、煙草の煙。
「ああーん? なんだよおっさん、この子の知り合いかあ?」
お兄さんがおじさんを睨み付ける。
私はぼんやりと、おじさんを見上げた。背は高い。でも、細い。喧嘩ができるようには見えないけれど。
「知り合いじゃねえが」
ふう。おじさんが煙を吐く。
「警察だ」
隣でお兄さんが息を飲むのがわかった。
「け、警察ぅ?」
「ああ。そのカバンの中身、見せてもらおうか」
お兄さんは逃げた。私の手を振り払って逃げた。真っ直ぐ走れていたから、私は少し笑った。
おじさんは追いかけなかった。
「私、逮捕されるの?」
そう問うと、おじさんは面倒くさそうに私を見下ろした。
「俺は警察じゃねえよ。餓鬼がこんなところで何やってんだ、家帰って寝てろ」
えっ?
どういうこと?
理解が追い付かないうちに、おじさんはどこかへ去っていってしまっていた。変なおじさんだな、と思ったけれど、別にどうでもいいかとも思った。
家へ帰ってから、急に心臓がどきどきとうるさくなった。
あのままどこかに連れ攫われていたら、どうなっていたのだろう。母は心配しただろうか。妹は泣いただろうか。
あの時は気が付かなかったけれど、私は、怖かったのだろうか。
突然恐怖と罪悪感が押し寄せてくる。
こういうときが、たまにある。上手に壊れきることができていないから、こうして正気に戻ってしまうのだ。それが嫌だから、何度も何度も理性を殺しているのに。何度も何度も知らない人に抱かれているのに。
中途半端な理性を引きずる私にはもう、進路も退路もないのだと思った。
死んでしまいたいなと思った。生まれ落ちてから何度同じことを考えたかわからない。
でも、母はともかく、妹が悲しむのは嫌だった。それだけはどうしても絶対にダメだった。
純真無垢な可愛い妹。いつだって私の手を引いて笑ってくれた。私の希望。唯一の未練。
私が自殺なんてしたらきっと妹は怒るだろうし、泣くだろうし、悔やむだろうし、憎むだろうと思った。それはなんとしてでも避けたいけれど、生きていくのももう疲れたなと思った。
だれか私を殺してくれないかな。
なんとなく、今日会ったおじさんの顔を思い出した。警察官じゃない警察の男。気怠そうな目と煙草の煙。
あのおじさん、私のこと、殺してくれないかなあ。
くれないよなあ。
息苦しいまま、夜はなかなか明けなかった。
- チョコレートの快楽 -