05
「病院、行ってきたの?」
家に帰ると、待ち構えていたのは妹だった。
「ううん」
「またエンコーしてたの?」
「今日はお金ないよ」
静かに告げると、妹はむっとしたようだった。
「そんなこと聞いてない」
知ってるよ、と思った。ごめんね、とも思った。
「ねえ、そういうの、いつまで続ける気なの?」
部屋に向かう私の後ろを、妹がずんずんと付いてくる。
「病気になって死んじゃうよ。性病って言うんだって」
「愛(めぐみ)はもう、生理きた?」
「きてないよ。まだ」
小学校六年生で、初潮がまだ。別におかしくないか、と頷く。
「お姉ちゃんってば。聞いてるの?」
「うん。お風呂入る」
逃げるように浴室へ入った。
無垢で優しい、可愛い妹。私のようになっちゃだめだよ、と強く思った。
どうか、清らかなままで。どうか、知らないままで。
ごめんね。
ごめんなさい。
降り注ぐお湯を頭から被って、蹲る。
ごめんなさい。
あなたを見る度に、汚い私の心が締め付けられる。あなたを私の罰にして、ごめんなさい。
どんなに暗い気持ちで眠りについたって、朝は来る。何度だって来る。終わりはない。
「行ってきます」
ふらりと、制服で家を出た。
朝日は麻薬のようだった。梅雨入り目前の湿った空気が、思考をくるんで塗りつぶす。落ち込んでいたその内容すら、どこかへ落ち込んで消えていく。
抱かれたいな、と思った。昨日はできなかったから。引き寄せられるように、ホテル通りへ向かう。
朝の八時。予想はしていたが人がいなかった。日陰に入り、携帯と名刺を取り出す。電話帳登録。きとさん。
ああ、向こうは私のアドレス、知らないのか。何か適当に送っておかないと。そう考えて、でも、向こうから連絡してくることはなさそうだなとも思った。
メール作成画面で、指が止まる。空メール。いや。
二十分ほどかけて、出来上がったメールは簡潔なものだった。
『件名:こんの しいか
本文:おはよう』
一分後に返信が来る。
『件名:漢字は?
本文:学校か?』
質問が並ぶ文面に苦笑する。仕事はまだ始まってないのだろうか。
『件名:紺野 椎華
本文:ホテル通り』
またすぐに帰ってきた。
『件名:Re:紺野 椎華
本文:学校行け』
なんて愛想のないメールだろう。
学校。学校なんて。
『件名:なんか件名つけて
本文:きとさん仕事は』
『件名:('ω')ノ
本文:まだ 学校行け』
『件名:かわいい
本文:行ったらご褒美くれる?』
やり取りをしているうちに、抱かれる気分ではなくなってきてしまった。溜息を吐く。
立ち上がり、移動しようかなと考えているうちに返信が来た。
『件名:Re:かわいい
本文:ジュース一本』
ふふ、と思わず笑みが零れた。
いらない。ジュースなんて、いらない。でも、私のためにジュースを用意してくれる貴人さんは、ちょっと見たいなと思った。
『件名:可愛いって言われたのかと思った
本文:じゃあ、行ってくるね』
私はきっかけを、探していたのかもしれなかった。
- チョコレートの快楽 -