宅配業というのは本当に大変な仕事だ。キツいし変な客は多いし上司はウザいし、もう辞めようかな……と最近は思い始めている。
しかし今はそんな憂鬱は置いといて、とにかく目の前の荷物を運ばなくてはならない。えーと、次の荷物は、尾形百之助さんのお宅……。
ここは初めて来るお宅だ。最近越してきたのだろうか。荷物を抱えて、チャイムのボタンを押す。ピンポン、とどこの家でも代り映えのしない音を聞きながら住人が受け取りに来るのを待った。
中々出てこないのでもう一度ボタンを押そうとすると、ばたばたと慌てた様子の足音が聞こえて来た。
「ご、ごめんなさい。おまたせしました」
思わず、荷物を落としそうになった。
ドアを開けて俺の目の前に現れたのはブカブカの黒いTシャツ一枚の女の子(しかもかわいい)だったのだ。俺がAV男優なら玄関即ハメセックスが始まるやつだ。先週見た。
「……あの?」
「あっ、スイマセン!尾形百之助さんに、お荷物なんですけど、」
脳内でAVを再生しかけていると、目の前のTシャツ美女がおずおずと声をかけてきた。声もかわいい。
しかしあまりジロジロ見ると会社にクレームが入るかもしれない。さっさと荷物を渡してこの場を去るべきだ。
こちらに受け取りのサインを、とスマホを提示すると、美少女はまんまるの目をもっと大きくして俺を見た。かわいい。
「スマホに書くんですか?」
「はっ、はい。指で、画面にサインを」
「へぇ、すごい!……尾形って書きにくいな……わたしの名前でもいいんですか?」
「大丈夫です」
「オイ」
俺の声を遮るように低く不機嫌な声が響き渡る。確実に尾形百之助さんご本人だろう。
目線を声の方へと動かせば風呂上がりらしき男性が俺をことをじろりと見ていたが、その目が怖すぎて、俺はすぐに視線を泳がせた。
「サイン、寄越せ」
男性は俺の手からスマホをもぎ取って、すぐに指でサインをする。ポイ、と投げるように返されたスマホには尾形、と確かに書かれていた。やっぱり尾形百之助さんご本人らしい。
「こちら、お荷物です」
「ごくろうさまでした」
さっさとドアを閉めたいのか、荷物を奪い取るようにして受け取った尾形さんとは対照的に、Tシャツ美女は優しく声をかけてくれた。かわいい。
「何勝手に出てんだよ」
「だって、やっ、荷物来てたから、あ……っ♡」
ありがとうございました、と声をかける俺を無視して扉を閉めながら尾形さんは女の子と話している。
その閉まる扉の向こうで、確かに尾形さんの手は女の子の股間に突っ込まれていた。しかも俺の見間違いじゃ無ければ、太ももに何か液体が伝っていたはずだ。……え?まじで?
もっと見たい、という俺の欲望を無視して無情にも扉は閉じてしまう。ほんの、ちょっとだけ……と扉に耳をくっつけて聞き耳を立ててみる。正直誰かに見られたらクレームが入って即クビだが、もういい。どうせ辞めたいと思っている仕事より目の前のセックスだ。
「あっ♡ご、ごめんな、さいっ♡」
「さっき動けない位抱き潰すべきだったな」
あっ。ガチセックスだ。ていうか、すでにセックス後だったんですか?
ちんこがムクムクと勃起していくのを感じながら、俺は夢中になって扉に貼り付いた。
このまま玄関即ハメセックスしてもらえるんですか!?と興奮していると、ものすごい衝撃で体が吹っ飛んだ。身体中が痛い。どうやら、扉をすさまじい勢いで開かれたらしい。やばい、バレてた。
「三秒以内に消えろ。じゃなけりゃ殺すぞ」
まじで人殺しの目をした尾形さんが俺のことを見下ろしている。こんな目をした人間が現代社会に居るのか?ちんこがみるみるうちに萎えていくのを感じながら、俺は全速力で立ち去った。クレーム入れられてクビルート決定だ。
立ち去る時に少しだけ見えた玄関では、Tシャツ美女のパンツ丸出しでへたり込む姿が一瞬見えた。
Tシャツの下、やっぱパンツだったんだ。しかも、ピンク……。かわいい。
トラックに戻った俺は今の出来事を脳内で何度も反芻した。今日、仕事終わったら玄関即ハメAVをDLしてメッチャ抜こうと心に固く誓った。
そしてその夜、俺は予想通りクビになり無職になった。尾形さん、クレーム早いですね。