(こちらの小説はちんぷいの頃田さんと合作で書いた小説です。頃田さんのサイトでキバナさん視点の漫画が読めますのでぜひぜひ合わせてどうぞ!)
キバナさんがキスしてくれない。
いつもは朝起きたときのおはようのキスから始まって、事あるごとにあちこちにキスをしてくれるキバナさんなのだが、何故だか今日はまだ一度もわたしにキスをしてくれていなかった。
何か怒らせてしまったのかな、と考えてみても何も思い浮かばない。それに、キスをしてくれない以外は何もかもいつも通りの優しくて穏やかでかっこいいキバナさんなのだ。
優しくわたしの腰を抱き寄せて耳元で愛を囁いてくれたり、二人でくっついて自撮り写真を撮ったり、あーん、とわたしの口にお菓子を入れてくれたり。他にもたくさん。
今だってベッドの上でくっついて二人で雑誌を読んでいる。キバナさんはわたしのことを後ろから抱きしめて、その大きな体でわたしの体を包み込んでくれていた。だからこそ、いつもみたいにキスしてもらえないのが寂しくて、なんだかそわそわする。
チラリとキバナさんの顔を見上げてみても、キバナさんは普段と変わらない表情で「ん?」と微笑むばかりだ。
気がつけばわたしの頭の中は目の前の雑誌の内容ではなく、キバナさんとのキスのことでいっぱいになってしまっていた。キバナさんとキス、したいな。
「どうかした?」
わたしの様子がおかしいことに気がついたのか、キバナさんが優しく声をかけてくれる。「なんでもない」と言いかけたわたしは、せっかくキバナさんが気にかけてくれたんだから、とすぐに思い直した。ちょっと恥ずかしいけど、キスのことキバナさんに直接聞いてみよう。
「……今日はキスしないの……?」
わたしがそう言うと、キバナさんはわたしの体をひょいっと抱き上げて膝の上へと乗せた。お互いに向き合う形になり、キバナさんの大きな手がわたしの腰をぐっと抱き寄せる。
雑誌がばさりとわたしの手から落ちるのも気にせず、キバナさんはじいっとわたしの顔を見つめていた。その視線がなんだか熱っぽくて、胸がドキドキする。
「なまえはキスしたいの?」
「………っ」
キバナさんの言葉に、かあっと顔が熱くなる。恥ずかしさからキバナさんの顔を見ることができなくて、わたしは俯いたまま小さな声で「したいです」と答えた。……キバナさん、キスしてくれるのかな……。
「だーめ♡」
「えっ……」
思いもよらない返答に顔を上げると、すぐ目の前にキバナさんのかっこいい顔があって心臓がどきりと高鳴る。キバナさんはそのかっこいい顔で微笑みながら、わたしに優しく命令した。
「ちゃんとオレさまの顔見ておねだりして」
「恥ずかしいよぉ……」
「おねだりする時は顔見てするって、前に教えたの忘れちゃった?」
そう言ったキバナさんは再び俯いていたわたしの顎を掴み、くい、と顔を上げさせた。その仕草とばちりとぶつかる視線に、頭の中で色んな記憶が呼び起こされる。
恥ずかしくてたまらないのに、キバナさんから目を逸らすことができない。わたしの心も体も、完全にキバナさんに服従してしまっているのだ。羞恥と緊張で震える手でキバナさんの服を握りしめながら、わたしは重たい口を開いた。
「キス、してください……っ」
やっとのことでそう言い終えると、キバナさんは顎を掴んでいた手を頬に滑らせてわたしの頬を優しく撫でてくれた。気持ちいい。キバナさんの大きな手のひら、大好き。
にんまりと笑ったキバナさんの顔がゆっくりと近付いてきて、わたしはそっと目を閉じる。今度こそキバナさんにキスしてもらえる、と期待するわたしの頬に柔らかいものが触れて、ちゅっ♡というかわいいリップ音が響いた。驚いて目を開けば、キバナさんはそれはもういじわるな顔でにまにまと笑いながらわたしを見つめていた。
「ほ、ほっぺ……?」
「ん? ほっぺにじゃなかった?」
キスして欲しいのはほっぺにじゃないって、絶対にわかってるはずなのに。今のキバナさんの顔は、間違いなくわたしをいじめて楽しんでいる顔だ。キバナさんのいじわる。
キバナさんは普段ものすごく優しいのに、時々こうしていじわるになる。いじわるなスイッチが入ったキバナさんは、わたしのことをとことんいじめて楽しむのだ。本人も前に言っていたけれど、間違いなくキバナさんはサドだ。
「フフッ、じゃあなまえがして」
「……っ⁉︎」
「なまえから、いつもオレさまがしてるみたいにキスして」
いつもキバナさんがしてくれるキス、と言われて一番に頭に浮かんだのは舌を絡ませ合う、わたしのことを食べてしまうみたいなあの深いキスだった。しかしわたしがあんな——キバナさんみたいに舌を動かしたり絡ませたりできる訳がない。
じっとわたしを見つめるキバナさんの視線に急かされて、わたしは勇気を出してちゅっと唇が触れ合うだけのキスをした。
これで、キバナさんは許してくれるだろうか。そう不安に思いながらもキバナさんの顔をちらりと見上げれば、キバナさんはまっすぐにわたしを見つめていた。その表情はいつものふにゃふにゃの笑顔とはまるで違う厳しい表情で、思わず体がびくりとこわばる。
「だめだ」
「あ……ひぅ……」
「オレさまがしてるのはそんなんじゃないだろ? ちゃんとやれ」
「ご、ごめんなさい……っ」
キバナさんにハッキリと言い放たれ、涙がぽろぽろ溢れてしまった。いじわるなキバナさんに恥ずかしいことをさせられているというのに、わたしは心のどこかで興奮してしまっている。顔だけじゃなくて、体が全部あつい。
色んな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、わたしは再びキバナさんの唇に自分の唇を重ねた。
「っ、ひぐ……」
ぐずぐずと泣き声を漏らしながら、そろそろと舌を伸ばす。キバナさんはいつもこうやってわたしの唇を舐めたり、食んだりしてくれるはずだ。それからわざと少し噛んだり、大きな舌でわたしの舌を絡め取ったり……どうしよう、思い出すだけでも体がぞくぞくする。
必死に舌を動かしているとうまく呼吸ができなくてすぐに息が苦しくなってしまう。一度顔を離そうとしたその時、キバナさんの手がわたしの耳にするりと触れた。
「あっ!?」
「こうやんの」
「やっ、キバナさん……っ」
キバナさんは耳に触れている手と反対の手でわたしの頭を押さえ込み、出しっぱなしになっていたわたしの舌をべろりと舐めた。そしてそのまま大きな舌をわたしの口内に差し込み、くちゅくちゅ音を立てながら口の中を舐め回す。
口の中を余すことなく全部舐めようとするその動きはまるで生き物のようだ。キバナさんの舌はわたしの舌よりも大きいのに、不思議なことにとても器用に動きまわる。
片手で耳に触れられているせいで、唾液の混ざり合う音が頭の中でやけに大きく響いていた。くちゅくちゅといやらしい水音と、わたしのくぐもった声だけが聞こえる。
キバナさんの指は丁寧に耳の外側をなぞり、凹凸を確かめるように何度も何度もゆっくりと耳を撫で上げた。
耳への刺激だけでもどうにかなってしまいそうなのに、わたしの耳を責めるその間にも、キバナさんの舌はぬりゅぬりゅと忙しなく口内を動き続けていた。
さっきまでわたしがしていたキスなんかとはまるで違うその動きは、わたしの心を再び羞恥でいっぱいにする。さっきのわたしのキスは、キスどころかまるで餌をねだる小さなベビーポケモンみたいだ。
そんな羞恥心ごと、わたしの思考はキバナさんとのキスでどろどろに溶かされていってしまう。キバナさんに触られている耳も、押さえられている頭も、重なり合う唇や舌も、全部ぜんぶ熱くてたまらない。
呼吸が苦しくて何度も唇を離そうとしても、その度に頭を押さえ込まれて舌を押し込まれる。それに応えるように必死に舌を動かせばキバナさんが喉の奥でくくっと笑うのがわかった。苦しくて気持ちよくて恥ずかしくて、頭がくらくらする。
とろとろと流し込まれた唾液を飲み干せば、キバナさんはやっと唇を解放してくれた。どれくらい長い時間キスしていたのだろう。もう唇を離したというのに頭の中は未だぼうっとしたままで、キバナさんの足の上で体が勝手にびくびく跳ねてしまう。
はぁはぁ息も絶え絶えなわたしと違い、キバナさんは少しも呼吸が乱れていなかった。唾液がとろりとお互いの口を繋ぐ様が目に入って恥ずかしい。上機嫌なキバナさんは、頭を押さえていた手でわたしのことを優しく撫でながら甘ったるい声で問いかける。
「キスの仕方わかった?」
「……ひゃい♡」
「フフッ、いいこだな」
わたしの返事を聞いたキバナさんは、満足そうににんまりと笑ってわたしを見下ろした。キバナさんの眼差しは愛おしいものを見つめるように熱く、甘い。
「じゃあご褒美あげる」
どさりとベッドに押し倒され、キバナさんによってシーツに縫い付けられる。そのまま「朝からお預けしてた分♡」と楽しそうに笑うキバナさんにたっぷりキスされて、わたしはとろとろにされてしまった。
その後、ちっとも終わることのないキスに今度は「ちょっと休憩させてください」と泣き言を漏らせば、キバナさんはまたいじわるな顔をしてわたしのことを見下ろしたのだった。
今日はもうベッドから出られないかもしれない。