うーん、と一人部屋で伸びをしてスマホを手に取る。今日は珍しく何も依頼が無いらしく、隠神さんから休日を言い渡されている。一人で買い物にでも行ってこようかな、とベッドに転がりながらスマホの画面を眺めていると、コンコンと控えめなノックの音が部屋に響いた。
「はーい、どうぞ」
わたしがベッドに転がったままそう返事をすると、数秒置いてからドアがそっと開かれる。どうしたのかな? とドアを見つめれば、見慣れたツンツン頭がひょっこりと現れた。
織くんはキョロキョロと廊下を見渡してから、少し慌てた様子でわたしの部屋へと足を踏み入れた。なんだか織くんの様子がいつもと違う気がする。落ち着きがないというか、ソワソワしてるというか……織くんがかわいいことには変わりないのだけど。
「織くん、どうかした?」
「……あのさ」
「うん?」
寝そべったまま話を聞くのはよくないかな、と思ったわたしはベッドにきちんと座り直して、心なしか頬の赤い織くんを見つめる。すると織くんはドアにもたれかかり、自分の足元を見つめたままポツポツと話し始めた。
「なまえさん、今日なんか予定あったりする? もし何も無いんだったら、俺と……デ、デ…………」
「でで……?」
「デっ、出掛けねぇ?」
やっとばちりと視線がぶつかった織くんに「うれしい。ちょうど暇してたの」と笑えば、織くんはぱあっと顔を輝かせた。
「マジ!? いいの!?」
「うん、もちろん。準備するから少しだけ待っててくれる?」
「あ、俺も準備してくる」
そう言った織くんは大慌てでわたしの部屋から飛び出していった。うーん、かわいい。
今日はお姉さんがアイスでもご馳走しちゃおうかな。本当はピザ屋さんの方がいいかもしれないけど、ランチにはちょっと早い気がする。ピザ屋さんはまた今度連れて行ってあげよう。
♡ ♡ ♡
というわけで織くんとわたしは二人でアイスクリーム屋さんに来たのだった。小さなテーブルに二人で向かい合って座って、SNS映え間違いなしのかわいいアイスクリームをスプーンでつつく。ここのアイスクリームはかわいいだけじゃなくてとってもおいしいのだ。
「このアイスクリーム屋さん、晶くんに教えてもらったんだけど、織くんも来たことある?」
「あー……前に一回だけあるけど、そん時はアイス食ってないかも」
「えっ、アイスクリーム屋さんなのに? 織くんアイス嫌いだった?」
「いや、そん時はマジで色々あって……アイスは好きだよ」
「よかったぁ。わたしも大好き!」
「だい……ふ、ふーん、そっか」
そんな他愛のない会話をしながら、アイスをぱくぱくと口に運んでいく。織くんはわたしに何の味が好きなのかだとか、他に好きな食べ物はあるのかだとか色んなことを聞いてくれた。
こうして話してみると織くんとわたしはお互いに知らないことがまだたくさんある。一つ屋根の下で一緒に過ごしているのになんだか不思議だ。織くんともっと仲良くなりたいなぁ。
「なんか、こうしてるとデートみたいだね」
とろりと溶け始めたアイスクリームを掬いながら、ちょっとした冗談のつもりでそう言った。
てっきり「何言ってんの?」などと返事が返ってくるかと思っていたのに、織くんは俯いて黙ったままだ。もしかして怒らせちゃったのかな、と慌てて織くんの名前を呼べば、織くんは顔を上げてまっすぐにわたしの顔を見た。
「……俺は『みたい』じゃなくてデートのつもりなんだけど」
「へっ!?」
ぼとり、と溶けたアイスクリームがスプーンからテーブルに落ちる。しかし織くんもわたしも、お互いの顔から視線を動かすことはなかった。織くんのいつになく真剣な表情がわたしの鼓動を早くする。全身が熱くて、うまく言葉が出てこない。あれ? わたし、織くんのこと、かわいい弟みたいに思ってたはずなのに。
「なまえさんのその反応ってさ、期待していいってこと?」
「え、えっと、それは……」
頬を赤く染めた織くんにじいっと見つめられ、机の上に落ちたアイスクリームみたいに思考がどろどろと溶けていく。意識すればするほどどうしたらいいのかわからなくない。
かわいい弟みたいな存在だったはずの織くんは、大人の男性みたいな顔をしてわたしの名前を呼んだ。