控えめに扉を叩く音が聞こえた後、ひょこりと顔を出したのは僕のかわいい秘書、なまえだった。朝見て以来数時間ぶりの姿だが、相も変わらずかわいい。
それを目にした僕は手早く机の上の書類を押し退けた。この時間に来るって事はきっとアレだ、そろそろ休憩でも的なやつ。
「高杉社長、そろそろ休憩になさいますか?」
ほらな!
僕のかわいいなまえは丸い朱色のお盆にお茶と維新まんじゅうを乗せ、小さな歩幅でゆっくりと僕の方へ近づいてくる。その動作がやけに小動物じみていて、思わず撫で回しに駆け寄りたくなった。しかしそんな事をしては、お茶を溢さないようにと真剣になっているなまえの機嫌を損ねる事になるだろう。
なので大人しく我慢してなまえが机にお盆を置くのをヘラヘラと眺めていると、彼女はにっこり笑って「どうぞ」と僕の顔を見つめた。
わぁ、かわいい。
「いやぁ、僕のなまえは気がきくなぁ!」
「えへへ……では、どうぞごゆっくり休憩なさってください」
あろうことかさっさと部屋を出て行こうとするなまえの腕を反射的にがしりと掴み、そのまま引っ張る。するとバランスを崩した華奢な体は、僕の膝の上へと着地して見事に収まった。
「どこへ行く気なのかな? 君は僕の秘書なんだから休憩もサポートしてくれなきゃだろ。あ、具体的に言うとこのまんじゅう、僕に『あーん♡』ってしてくれる?」
「わ、わかりましたから、下ろしてください」
「ヤダ」
少し慌てた様子で僕の膝から下りようとするなまえの体を両腕でぎゅっと抱きしめて、僕はキッパリと言い放った。するとなまえは顔をほんのりと赤らめ、もじもじと僕の顔を見つめる。
「でも、こんな姿どなたか社員の方に見られたら恥ずかしいんですけど……」
「いやだな君! この間もっと見られたらまずい事をここでしたばかりじゃないか。そういえばあの時もそうやって恥ずか……むぐっ」
「おまんじゅう! どうぞ!」
それ以上言うなと言わんばかりに口に維新まんじゅうを押し込まれ、僕の口の中に甘い味が広がった。きっとこの間の事を思い出しているのだろう、なまえの顔がさっきよりも更に赤くなっている。その愛らしい反応に、ついついまた軽口を叩いていじめたくなってしまう。
僕の望んだ形では無かったけれど、まぁこれはこれでなかなか。僕は機嫌よくもぐもぐとまんじゅうを咀嚼して腹の中へと飲み下し、なまえが淹れてくれたおいしいお茶を飲んだ。
「うん、おいしいお茶とお茶菓子をありがとう、なまえ」
「いいえ、とんでもないです。それであの……社長、まだ下ろしてくれないんでしょうか……?」
頬を染めたまま、困った様に眉を下げてこちらを見るなまえの表情は扇情的だ。
僕だって始めは手ずからまんじゅうを食べさせてもらって、そのままちょっとイチャイチャして、よしそれじゃあ休憩終わり……なんて考えてたんだけど、そんなに可愛い顔をされちゃなぁ。
そりゃあもう少しゆっくり休憩を取ってもいいんじゃないか、なんて気分になってしまうのも仕方がないだろう。
「このままもう少し僕に付き合ってくれたまえ。……なぁ、いいだろう? なまえ」
甘ったるい声で名前を呼んで、細い腰を撫で回す。僕の言葉に言い含められた意味を察したからか、ぴくりと体を跳ねさせたなまえの呼吸は少し浅くなっていた。
「……でも、誰か来たら……」
消え入りそうな小さな声はなまえの揺らぐ理性を表しているかのようだ。本当はもう期待しているくせに、かわいいな。
腰を撫でていた手をするりとなまえのスカートの中に差し込みながら、僕はにんまりと笑って見せる。
「誰か来たらって? そうだなぁ、そいつに見せてやるのも面白いんじゃないかな」
「っ社長!」
「ははは、冗談だって。大丈夫大丈夫、こないだだって誰も来なかっただろ。今日も来ないさ。……だからほら、僕のこと社長じゃなくて名前で呼んでよ。いつもみたいに、ぐずぐずになったかわいい声で」
「ぁ……っ♡」
くっと内腿に爪を立てて揺れる瞳を覗き込む。その瞳にはもう、僕しか写っていない。
小さな刺激をきっかけにして情欲に浮かされ始めたかわいい恋人は、艶やかな唇で「晋作さん」と僕の名前をそっと呼んだ。