汗ばむような気温や日差しで、昨日までは春の訪れを感じるような天候だったというのに。今日はうってかわって悪天候に低気温、冬に逆戻りといった寒さだ。
昨日までの暖かさですっかり服を春物に切り替えていたわたしにとって、今日の気候は極寒だった。仕事中は空調のきいた室内に居たのでまだ平気だったのだが、帰り道は冷たい風がびゅうびゅう吹いていて手足もすっかり冷え切ってしまっていた。
こんなぺらぺらの春物のコートを着た朝の自分を叱りつけたい。今朝は佐一くんにも「今日結構冷えるみたいだよぉ? 大丈夫?」なんて言われていたのに。わたしのばか。
そんなこんなでやっとのことで家にたどり着いたわたしは、歯をガチガチ鳴らしながら玄関のドアを開いた。かじかんだ手で握るドアノブがとてつもなく冷たい。

「おかえりなさい」

暖かい空気と共にわたしを出迎えてくれたのは笑顔の佐一くんだった。わたしが「ただいま」と震えながら靴を脱ぐと、佐一くんはすぐさま冷え切ったわたしの体をぎゅうっと抱き締める。温かい佐一くんの体温と、優しい匂いにすぐに体がぽわぽわと温まっていった。
佐一くんは本当はものすごく力が強いのに、わたしに触れる時はとても優しい。わたしを傷つけないように常に気を付けてくれているのだ。やさしい。

「今日寒かったね。なまえちゃん、まずご飯食べる? 先にお風呂にする?」
「えへへ、佐一くん新妻みたい。それとも俺? はないの?」

わたしが冗談めいてそう言うと、佐一くんはにやりと笑ってわたしの腰を抱き寄せた。お互いの下半身がぴとりと密着して、佐一くんのふにゃりと眉毛の下がった優しい笑顔が一変して意地悪な表情になる。

「俺がいいの?」

佐一くんのごつごつした手が、わたしの腰からお尻の方へとするする滑っていく。そのままいやらしくお尻を撫でられ、むにむにと数回揉まれると体がぴくぴくと反応してしまう。それが恥ずかしくて思わず俯くと、佐一くんはわたしの耳元でもう一度囁いた。その声は低く掠れていて、とても色っぽい。

「俺が温めてあげようか」

どくどくと心臓の鼓動が速くなって、体がぼっと熱くなる。つい数分前まで寒さに震えていたというのに、今はもう手のひらにじわりと汗が滲んでさえいた。
このまま流されてしまったら、きっと玄関で最後までしてしまう事になる。お尻を撫でる佐一くんの手が下着の中に入り込んで、わたしのことをあっという間にどろどろにしてしまうだろう。それを想像するだけでふうふうと呼吸が浅く、早くなる。
しかし、この間玄関でしてしまった時は片付けが大変だったし、なによりご近所さんに色々と聞こえてしまっていたような気もする。翌朝わたしたちと出くわしたお隣さんの表情が何もかもを物語っていた。またそれを繰り返すのは非常によくない。

「も、もう、じゅうぶんあったまったぁ……」

お腹の奥がじんじんと疼いてしまっている事に気付かないふりをして、むにゅっと柔らかくも弾力のある佐一くんの胸を押して首を振る。すると佐一くんはすぐにわたしのお尻から手を離し、今度はわたしの手をぎゅうっと握った。

「ふふ、本当だ。なまえちゃんの手、ぽかぽかになってる。それじゃ先にご飯食べよっか?」
「え? あ、うん……」

意外にもあっさりと引き下がる佐一くんに、わたしは自分が少しだけ残念な気持ちになっていることに気がついた。これじゃまるで、本当はこのまま佐一くんとここでえっちしたかったみたいだ。
表情や声に残念がっているのが出てなかっただろうか。そうハッと気がついて、羞恥心でいっぱいになりながらそろそろと佐一くんの顔を見ると、佐一くんはニッと笑ってわたしを見つめていた。

「ご飯食べたら今の続きしようか。お風呂、二人で一緒に入ろう?」
「……はいる……」

どうやら佐一くんにはすべてお見通しらしい。ぽかぽかする体よりも更に顔が熱くなるのを感じて、わたしは佐一くんの手をきつく握り返した。数分前まで冷え切っていた指先も、体も全部が熱い。