わたしの恋人である百之助は、猫によく似ている。実家で飼っていた猫のような動きをよくしているし、顔もどことなく猫っぽい。窓の外をひらひらと舞う蝶々を目で追ってる時なんて、猫ちゃんそのものだった。
という訳で、そんな百之助の猫耳姿を見たいと思うのは、至極当然のことである。
しかし、尾形百之助という男がわたしに頼まれたからといって大人しく猫耳をつけてくれるというのは想像し難い。無視されるか、もしくは「嫌だ」と一蹴されるかのどちらかだろう。
なので、わたしは寝ている百之助の頭に勝手に猫耳をつける事にした。



ソファの肘置きに頬杖をついて足を組んだまま、百之助はすうすうと静かな寝息をたてている。猫ちゃんに寝てもらう為に、ネットでつまらないと酷評されまくっていた恋愛映画を無理矢理一緒に観ていたのだ。ちなみに本気でつまらなくてわたしも数回寝落ちかけた。
結局ストーリーがさっぱり頭に入ってこなかった映画をさっさと止め、テレビの電源を切る。そしてあらかじめソファの下に隠しておいた猫耳を手に取り、わたしはそっと百之助の頭にそれを装着した。

──かわいい!

黒いふかふかの猫耳は百之助の頭から生えてると言われてもおかしくないくらいぴったりだ。まさに猫ちゃん。これは絶対に写真に収めたい。
わたしがウキウキとスマホを構え、カシャッと一度シャッター音を鳴らしたその瞬間、スマホの画面の中の百之助が目をぱちりと開く。

「ずいぶん楽しそうだな」

その冷ややかな声に一気に全身の血の気が引いていくのを感じて、わたしは反射的に「ごめんなさい」と謝った。
顔を引き攣らせるわたしを眺めながら、百之助は頭の上の猫耳をすぐさま外した。そしてものの数分で猫ちゃんからいつもの百之助に戻った彼は、わたしの手の中のスマホを奪い取り、今撮ったばかりの写真をこちらに見せつける。

「寝てる間に勝手にこんな恥ずかしい写真を撮るのはよくない事だと思わないか?」
「えっ、あの、そんなつもりじゃ……」
「ヘェ……つまりお前はこれをつけるのは別に恥ずかしくない訳だ」

ニィっと口の端を吊り上げた百之助の顔を見て手のひらにじわりと汗が滲んだ。手の中の猫耳をひらひらと振りながら、百之助はわざとらしく「俺はすごく恥ずかしいんだがな」などと言ってみせる。

「えへ、えへへ……ごめんね、かわいかったからつい……」

誤魔化すように笑ってもう一度謝るとそれがまた気に入らなかったのか、百之助は無言のままわたしの首根っこを掴んでずるずると寝室へと引きずって行った。これではどちらが猫かわからない。
寝室のベッドに乱暴に放られたわたしの体の横にもっと乱暴に猫耳が投げられる。「つけろ」とわたしを見下ろしながら、百之助は着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。露わになった体は筋肉質で、わたしの体よりずっと分厚い。

「百之助……?」
「俺が恥ずかしい姿を撮られたんだから、なまえのも撮らせろよ」
「えっ、それって……」

この状況で頭に思い浮かぶのはえっちな事ばかりで、頬がかあーっと熱くなる。ベッドの上でおずおずと猫耳を手に取り、百之助の顔を見上げてみると百之助はにやりと笑いながらスマホを構えていた。

「それつけるだけじゃなまえは恥ずかしくないらしいからな、ハメ撮りで今回のことは許してやる」
「ひゃわ……」

ばくばくと心臓の音がうるさくて、自分がどんな声を出したのかよくわからない。
情けない声を出したのは間違いないだろう。猫耳を握ったまま固まるわたしの隣に腰掛けて、百之助はわたしの顔を覗き込んだ。漆黒の瞳には、わたしの姿だけが映っている。

「あぁ、それとも何だ。ドマゾのお前は俺に許されるよりも、叱られて泣かされたいのか」
「ち、ちが……」

首を左右に小さく振って否定してみても、百之助の言葉でお腹の奥がきゅうっと疼いてしまっているのは事実だった。
それが恥ずかしくて、情けなくて、気持ちよくて、頭の中がぐるぐるする。体が熱くてたまらない。どうしてわたしの体はこうなのだろう。百之助にいじめられ過ぎたせいなのか、それとも元々そうだったのか。
震える手でそろそろと猫耳を頭につければ、百之助は髪を撫で付けながら愉しそうに笑い声をあげた。

「ははッ、今どんな顔してるかわかってるか? 俺にいじめられたくて仕方ないって顔してるぜ、なまえ」

ふうふうと呼吸が浅くなって、無意識に腰が揺れてしまう。下着の中は、すでにぐっしょりと濡れている。わたしが縋るように名前を呼ぶと、百之助は真っ黒な目をスッと細めてわたしのことをベッドへと押し倒した。