「ずるい」

家に来るなり突然そう言ってむくれるなまえは、俺の目の前にずいっとケーキ屋の箱を差し出した。とりあえずそれを受け取って「ずるいって、何が?」と聞き返すと、なまえは返事もせずに靴を脱いでさっさと部屋の中へ歩き出す。
どうやら何か不服な事があるらしいが、小動物がプンプンと怒っているような様子は可愛いとしか思えない。ゆるむ口許を手で押さえながら、俺はなまえの後に続いて部屋の中へ入った。

「わたしもヒロフミくんにケーキお預けされたり椅子にされたりしたい。デンジくんばっかりずるい」

どかりとソファに座ってこちらを見上げるなまえは、どうやら思っていたよりわけのわからない理由で拗ねていたらしい。
まさかなまえがデンジくん相手に妙なやきもちを焼いてたとは思わなかった。堪え切れなくてついくつくつと笑い声を漏らすと、なまえの可愛い顔が少し赤くなった。

「なんで笑うの」
「それでわざわざケーキ買ってきたんだ……?」
「そ、そうだよ。わたしにもやって欲しいんだもん」
「ケーキも椅子も、そんなに羨ましがる様な事じゃないと思うんだけどなぁ。何でそんな事されたいの?」

ケーキの入った小さな箱をローテーブルの上に置いて、なまえの隣に腰を下ろす。足を組んで隣を見れば、小さな手のひらがぎゅうっと握り締められていた。

「だって、わたしはヒロフミくんにそんな事された事ないのに……デンジくんはされた事あるの、ずるいよ」
「ふぅん……」

ぷくりと膨らむなまえの頬はほんのり赤く染まっていてとても被虐的だ。なだめるようにその頬を撫でて、ゆっくりと名前を呼ぶ。
するとまん丸な瞳がくすぐったそうに少し細められた。まるで猫みたいだ。

「つまり、俺にいじめられたいって事?」
「へっ!? ち、ちが……なんでそうなるの?」
「うん? だってなまえは俺にお預けされたり、踏まれたりしたいんだよね。それってつまりそういう事じゃないかな」
「あれ? え? そう……なのかな」

今更自分の発言が恥ずかしくなったのか、なまえの赤い顔が更に赤くなってしどろもどろになっている。そんな様子を横目に見ながら、俺はローテーブルの上の小さなケーキの箱を開いた。
中にはつやつやとした真っ赤な苺と真っ白なクリームで飾られたベーシックな苺のショートケーキが二つ、綺麗に収まっている。俺はケーキの周りにきちんと巻かれた透明なフィルムを剥がして、甘い香りのするそのケーキを手に取った。

「それに椅子はともかく、お預けならいつもしてあげてるんだけどなぁ……」
「いつもって……んぐ」

片手でクリームをすくって、クリームのついた指ごとなまえの小さな口の中に押し込む。するとなまえはおずおずと舌を俺の指に這わせながら、困ったようにこちらを見上げた。眉の下がったその情けない表情はとても蠱惑的に見える。

「こないだも泣いてぐずぐずになるまでチンポお預けしてあげたの、忘れちゃった?」
「んん……んぅ……」
「なまえちゃんが忘れないようにもっとひどくしてあげないとダメかな」

ね、どう思う? と笑いながら俺の指に絡みつく舌を押し返すと、なまえは目をとろんととろけさせて鼻にかかった声をあげる。すっかり期待してしまっている様子が見て取れて、ついつい楽しくなってしまう。俺のチンポを舐めるみたいにして指に舌を這わせるなまえの口から指を引き抜いて、俺はもう一度優しく問い掛けた。

「俺にいじめられたい?」

片手に持ったままのケーキを一口食べて、発情しきったなまえの顔を見る。うるんだ瞳で俺の顔を見つめる彼女はゆっくりと一度頷いて、震える小さな声で俺の問いかけに答えた。

「……っ、いじめられたい、です……♡」
「うん、いいよ」

これからされる事への期待のせいか、はたまた恥ずかしさのせいか、華奢な体は早くも小さく震えている。
可愛くて被虐的で、ぐちゃぐちゃにしてやりたくなるな。なまえはデンジくんの事をずるいと言っていたけど、俺がこんな風に思うのは世界中でなまえだけだって事全然わかってないんだろうか。

「それじゃ、これは後で食べよっか。あぁ、なまえはお預けされたいんだっけ……? そしたら俺の言うこと全部聞けたら食べてもいいって事にしよう」
「ヒロフミくんの言うことぜんぶ……?」
「そう、全部。一個でも出来なかったらケーキは食べさせてあげない」

ケーキをローテーブルの上の箱に戻して、ソファの上でなまえを押し倒す。そのまま足の間に体を入れて、柔らかい太ももに顔を寄せる。びくりと震える太ももを押さえ込み、そこに歯を立てるとなまえの小さな悲鳴が聞こえた。

「ぅ、あ♡ヒロフミくん……っ♡」
「ケーキ、食べられるといいね」

柔らかくて甘い、ケーキのような太ももに歯形を残して俺は「がんばれ」と笑った。