「わたし、今年のクリスマスまでに恋人を作ろうと思うの!」

焼きたてのパンの香りが漂う暖かい店内で、わたしは目の前にいるチリちゃんに真剣にそう言った。それと同時に店員さんがランチを食べ終えたわたしたちのお皿を下げに来て、少しだけ恥ずかしかったけれど、それはあまり気にしないでおく。

「へぇ……それはまた、なんでなん?」
「このままじゃ、今年もぼっちクリスマスになっちゃいそうで……。せっかくのクリスマス、恋人と楽しく過ごしたいじゃない?」

家族は遠い地方に住んでるし、周りの友達もみんな恋人と過ごすみたいだし……とがっくり項垂れると「失礼しまーす」と明るい声と共に食後のデザートとコーヒーが店員さんによって机の上に並べられた。
デザートはつやつやの苺の乗った丸いストロベリーケーキだ。ケーキには気が早いことにサンタクロースのピックが刺さっていて、クリスマスはもう目前だとまるで急かされているような気持ちになる。メリークリスマスと言わんばかりにケーキの上で微笑むペラペラのサンタクロースをさっさとお皿の上へどけて、わたしは苺にフォークを突き刺した。

「でも、全然相手が居なくて……」
「ふーん……こないだ話してたヤツはどうなったん? なまえ、ディナーに誘われたとかなんとか言うてたやろ」
「なんかわたしが返事する前に『やっぱり無しで』って断られちゃった」
「そしたらその前の、連絡先渡してきた男は?」
「ある日からぱったり連絡来なくなった」
「なるほどな」

ケーキを食べながら話すわたしを見つめ、チリちゃんはにこりと微笑む。そして手に持っていたコーヒーカップを机に置くと、ふいにわたしの手を取った。ぎゅうっとわたしの手を握るチリちゃんの手は、ぽかぽかとあたたかい。

「そしたら、チリちゃんが立候補しよかな」
「へっ?」

チリちゃんの言動の意味がよくわからず、間抜けな声を出してしまった。正面に居るチリちゃんは、にこにこと笑顔だった表情をがらりと変えて、真剣な眼差しでこちらを見つめる。チリちゃんに握られていた手は、いつの間にか指が絡め取られていた。

「楽しいクリスマスを過ごす、なまえの恋人にチリちゃんが立候補してるんやけど」
「え、あ……こいびと……」
「あーあー、真っ赤になってしもて……かーわいいなぁ」

いつもと違うチリちゃんの表情や声に、ぶわっと全身が熱くなる。こんなチリちゃん、知らない。そのあまりのかっこよさにドキドキと心臓の鼓動がうるさくなって、お店中に心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思う程だった。
ガチガチに固まるわたしを見てくすくすと笑うチリちゃんは、パッと手を離していつもの調子で話し始める。

「まぁゆっくり考えとき。クリスマスまではもーちょい日があるやろ」
「わ、わかっ、りました!」
「なんやねんその妙な返事」

楽しそうなチリちゃんはフォークを手に取って、ケーキの上の苺をぶすりと刺した。そしてそれをぱくりと頬張ると、わたしの顔を見てニィっと笑ってみせる。

「……今日からは色々と本気でいかせてもらうから覚悟しといてな、なまえ」
「ひえ」

心臓をぎゅっと握られたみたいな感覚に、自分でもどうしたらいいかわからない。反射的にかっこよすぎるチリちゃんから視線を逸らすと、ピックのサンタクロースがお皿の上でにっこりと笑っていた。
クリスマスは、もうすぐだ。