わたしの部屋の小さなベッドから体をはみ出させてくうくうと眠る花楓くんを見て、わたしは大きく深呼吸した。
「遊びに行かせて!」とにこにこ笑顔の花楓くんを数日前うちに招き入れてから、花楓くんは何故だか毎日うちに帰って来るようになった。
洗面所の歯ブラシはわたしのと花楓くんのもの二本立ってるし、花楓くんの替えの下着や部屋着用の大きなTシャツなんかもわたしのクローゼットに混ざっている。
他人と関わるのが大好きで暇さえあればあちこちで遊んでいる花楓くんが、どこにも行かずうちでわたしと二人でずっと過ごす日だってあった。
花楓くんのことが大好きなわたしとしては同棲のようになっているのはうれしい限りなのだけれど、これはどういう事なのだろう。
花楓くんは食べることもえっちなことも大好きだから、その両方をうちで満たしているだけなのだろうか。それとも、花楓くんもわたしのことが好きだと思っても、いいのかな。いや、でもあの花楓くんだし……と一人でうんうん唸っていたわたしは、勇気を振り絞って本人に聞いてみることにしたのだ。
よし、と気合を入れたわたしは、床に散らばる花楓くんの服を踏まないように気をつけながらベッドに近づいた。気持ちよさそうに眠る花楓くんの顔はとてもかわいい。
起こすのはちょっと忍びないけれど、起きたらすぐどこかへ飛び出していっちゃうかもしれないし起こして話をさせてもらおう。そう思ったわたしは、筋肉が盛り盛りの花楓くんの体を指でつんつんとつついた。

「ねぇ、花楓くん?」
「ん〜……」
「うひゃっ」

花楓くんは寝ぼけているのか、目を閉じたままわたしのことをベッドに引きずり込んだ。わたしの倍以上ある太い腕でぎゅうぎゅう抱きしめられ、うれしさよりも先に苦しさが襲ってくる。
寝ているせいか力加減がされていないらしくあちこち少し痛い。硬い胸板で体を押し潰されないように気をつけながら、わたしはもう一度花楓くんにそっと声をかけた。

「花楓くん、おきて」
「んう」
「おきてって、ひゃっ! ほっぺ舐めないでぇ」

寝ぼけた花楓くんにべろりとほっぺたを舐められ、思わず尻尾がぼわっと膨らむ。もしこれが舐めるのではなく齧られていたらと思うとぞっとせずにはいられないが、とにかく起きてもらわなくてはいけない。花楓くんのかわいい顔をぺちぺち叩くと、眠そうな瞼をゆっくりと開いた。

「あれ……なまえちゃん、おはよー?」
「おはよう。あの、花楓くん、く、くるしいから、腕ゆるめて……」
「あ、ゴメン」

パチリと目を覚ました花楓くんはぎゅうぎゅうときつく抱きしめていた腕の力をそっと弱めてくれた。目覚めのいい花楓くんの大きな瞳は、キラキラと輝きながらこちらを見つめている。

「なまえちゃん、なんか俺のこと起こしてた? セックスのおさそい?」
「ち、ちがうよ! 花楓くんに聞きたいことがあって」
「何なに?」
「えーっと……その、花楓くん、最近ずっとうちにいるけど自分の家に帰らなくていいの?」

花楓くんってわたしのこと好きなの? とズバリ聞くのを尻込みしてしまったわたしは、遠回しなことを聞いてしまった。この問いかけに、花楓くんはきょとんとしてわたしを見る。

「え? だってここ俺の家じゃん」
「? ここはわたしの家だよ」
「うん、だから俺たちの家!」

花楓くんの言っていることがよくわからなくて、わたしの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。花楓くん、うちに越してくるって言ってたっけ?

「あの、花楓くん。うちに来る前に住んでた家は? 人間の名前使って不動産屋さんと契約してない?」
「ふどーさんやさん? そいつのことは知らねーけど色んな人のとこで寝てたよ。梅ちゃんちとか、あとそのへんの道とか」

思いもよらない答えが返ってきて、わたしは目を丸くした。つまり、花楓くんは自分の家を持っていなかったということだろうか。元々外や色んな人の家を点々としていたなら、わたしの家もそろそろ出て行ってしまうのかな。

「……じゃあ、またそのうち他の人のとこに行くの?」
「なんで? 行かないよ。だって俺たち付き合ってるじゃん」
「つ……っ、つきあ……っ!?」

またしても予想外の返答に、わたしはうっかり耳と尻尾を飛び出させてしまった。花楓くんの腕の中でしどろもどろになっていると、花楓くんは不思議そうにわたしの顔を覗き込んだ。

「どーしたの? もうなまえちゃんの聞きたいこと終わり?」
「おわりです……」

付き合っていると花楓くんの口から聞けたことがうれしくて、頭の中がぽわぽわする。いつから花楓くんの中で付き合ってることになってるのかはよくわからないが、とにかくうれしい。
このまましばらく喜びに浸っていたかったのだけれど、退屈しだした花楓くんがわたしの耳をはむはむと口に入れ始めたので、わたしは慌てて花楓くんに話しかけた。

「そうだ、花楓くん! このベッド花楓くんには狭いよね? ベッド買い替えようかな」
「じゃー今日買いに行く? このベッド狭くて交尾しづらいもん。あ、俺服着てこよーっと!」

楽しみだな〜! なんて飛び起きてウキウキとクローゼットに向かう花楓くんを、わたしは狭いシングルベッドの上で赤面して見つめていた。
家具屋さんで一番大きいベッド、買っちゃおうかなぁ……。