※こちらのお話は後編配信前に書いた物なので本編と違っているところもあります。ご了承下さい。




キタカミの里で行われた林間学校から帰ってきてから、スグリくんの様子がおかしい。
以前までのスグリくんは大人しい性格ではあったものの、穏やかで優しくてよく笑顔も見せていた。しかし今のスグリくんは表情も固く、一人で何かを考えてばかりだ。林間学校で何かあったのかと尋ねても、スグリくんから返ってくる言葉は「なんもない」の一点張りだった。

スグリくんの様子がおかしなまま数日が経ったとある夜、わたしは寮の自室で林間学校についてのプリントを眺めていた。ベッドにごろりと転がって『キタカミの里』の文字を指でなぞる。
スグリくんとゼイユちゃんの故郷、キタカミの里。
プリントには『のどかな自然が溢れるスイリョクタウンで、歴史あるお祭りを体験してみませんか?』という見出しで、鬼についての昔話が書かれている。以前、スグリくんからも聞いた事があるお話だ。——わたしも一緒に林間学校に行っていたら、今スグリくんが何を考えているのかわかっただろうか。

「林間学校、行きたかったなあ……」

そうわたしが呟くのとほぼ同時に、部屋のドアを小さくノックする音が聞こえてくる。こんな時間に一体誰だろう? プリントをベッドに置いて、パジャマの裾を手で直してからドアを小さく開くとそこには同じくパジャマを着たスグリくんが立っていた。

「なまえ、よ、夜遅くにごめんな。ちょっとだけ話したいんだけど、入ってもいい?」
「うん、大丈夫だよ」
「……ありがと」

ふにゃりと笑ったスグリくんの表情は以前と変わらないもののように見えて、つられてわたしも笑顔になってしまった。こうして二人でベッドに並んで座っておしゃべりをするのはずいぶんと久しぶりのような気がする。もじもじと恥ずかしそうな様子のスグリくんは「えっと」だとか「その」だとか繰り返しながら、片手で自分の髪に触れていた。
うろうろと視線を泳がせていたスグリくんは、何かを見てぴたりとその動きを止める。視線の先にあったのは、さっきまでわたしが見ていた林間学校のプリントだった。

「これ……」
「これ? あっ、林間学校のプリント……なんとなく見てたの。わたしも行きたかったなって思って」

視線をプリントからわたしに移したスグリくんの瞳はどこか暗く、わたしは無意識に息を飲んだ。スグリくんはじいっとこちらを見つめながら、ゆっくりと確かめるようにわたしの名前を呼ぶ。普段よりも低く聞こえる声は、どこか高圧的だった。

「なまえは……おれのこと……」
「スグリくん?」
「おれのこと、好き?」

スグリくんの手が、ぎゅうっときつく握られている。ただならない雰囲気に少しだけ怖気付きながらも、わたしは「大好きだよ」と頷いた。

「じゃあ、なまえの全部、おれにくれる? 何もかも、ぜんぶ」
「う、うん。わたしにあげられるものなら……」
「……ほんと?」
「ほんと、だよ……?」

質問の意図がわからず、混乱しながらもそう答える。するとスグリくんはにへへ、と笑って「わやうれしい」とわたしの手を取った。スグリくんの顔がゆっくりと近付いて、ちゅ、と唇が触れ合う。そしてそのまま口の中にぬるりとしたものが入り込んできて、わたしはびくりと肩を揺らした。
今までのスグリくんとのキスではこんな事なかったのに。生まれて初めて体験する深いキスに、顔が一気に熱くなる。こんなの知らない、と震えるわたしの体を抱き締めて、スグリくんはわたしの口内で舌を動かした。ぞくぞくしたものが体を走っていって、お腹の奥がじくりと重くなる。どれもこれも初めての事で、思考がうまくまとまらない。
やっと唇を解放された頃にはわたしは肩で息をするような酸欠状態になっていて、全身が汗びっしょりだった。わたし程ではないけれど、スグリくんも同じように呼吸を乱している。何か話しかけようと口を開いた瞬間、スグリくんはわたしが今まで見たことのないような表情をして、ぐい、とわたしの体をベッドへと押し倒した。

「あ、え……?」
「おれ、ずっとこうしたかった。だけどおれ、なまえに嫌われるのが怖くて、今まで何も出来なくて——」

スグリくんがわたしの知らない笑顔でこちらを見下ろしていた。わたしよりも少し大きな手が、わたしの腕をがっちりとベッドに縫い付けている。
心臓が壊れてしまいそうな程にドキドキとうるさく鼓動しているのは、わたしも興奮しているからなのか、それとも恐怖心のせいなのか、もう何もわからない。

「でも、なまえの全部をおれにくれるんだもんな? 大好きって、言ってくれたもんな?」
「スグリく……ひっ♡」
「おれと、ずっと一緒に居てな」

唇が触れてしまいそうな距離でそう話しながら、スグリくんは硬くなった下半身をわたしの体に押し付けた。硬い膨らみでぐりゅぐりゅと股間を刺激され、下腹部がじんじんと疼くような感覚に襲われる。その感覚に戸惑って体を身じろぎさせれば、スグリくんは「逃げんで」とわたしを押さえ付ける手に力を込めた。
押さえ付けられた腕がきしりと痛み、下着の中でぐちゅりと濡れた音がする。快感と恐怖で心も体もぐちゃぐちゃで、自分の中で何かが歪んでいく気がした。