テレビニュースを見ていたら、ピンポン、と部屋のチャイムが鳴った。
ここ杜王町で火事があったとのことだから、ニュース見てたかったんだけどなぁ。何か宅配便で届く予定だったっけ、と首を傾げながらもわたしはインターホンに向かった。

「はい、どちら様ですか?」
「……僕だ。岸辺露伴だよ」
「えっ!露伴先生?」

露伴先生、どうしたんだろう。突然来るなんて珍しいけれど、何かあったのかな。慌てて玄関の扉を開けば、そこには不機嫌そうな露伴先生が立っていた。
むっとした顔のままわたしの家へとずかずか入り、ハァ〜っと大きなため息を吐く。

「なまえ、悪いが今晩泊めてくれないか。今日僕の家が燃えた」
「へっ!?家が……えっ?」
「言っておくが理由は聞かないでもらえるかな。もし君が理由を説明しないと泊めない、と言うなら僕は今すぐここを出て半焼した家で寝る」

半焼ということは全部燃えたわけではないのだろうか。そう尋ねたかったけれど、聞けば露伴先生の機嫌が更に悪くなることは目に見えていたのでわたしは黙って頷いた。
露伴先生には少し悪いけれど、気難しい恋人がわたしを頼って来てくれたのがわたしはうれしかったのだ。

「とりあえず中にどうぞ。えっと……コーヒーでいい?」
「あぁ、頂くよ。警察の実況見分だとか保険会社への連絡だとかで、気がつけばこんな時間だ。もうクタクタだよ。どうしてあぁいう奴らっていうのは、グズグズと同じ話ばっかり何度もしたがるんだか……ただでさえ最悪な気分がもっと最悪になったね」

わたしがコーヒーを淹れている間、ソファに座った露伴先生はぶつくさと愚痴を溢している。わたしはそれに相槌をうちながらも今晩のことを考えていた。
実は、露伴先生がうちに泊まるのは初めてなのだ。更に言うとわたしの家にはシングルサイズのベッドが一つしかない。
わたしがソファで寝て、露伴先生がベッド……でいいだろうか。いや、恋人なんだし同じベッドでいいのかな?でも狭いしなぁ……。こんなことなら、ダブルベッド……せめてセミダブルにしとけばよかったな。

「はい、コーヒーどうぞ」
「どうも」

こくりとコーヒーを飲んだ露伴先生ははぁ、と大きく息を吐いた。物憂げな表情がかっこいい。わたしは少しドキドキしながら露伴先生の隣に座り、同じくコーヒーを一口飲んだ。

「露伴先生、お布団のことなんですけど」
「布団?」
「わたしはソファで寝るので、露伴先生はベッド使ってください」

わたしがそう言うと、露伴先生はコーヒーのカップを机に置いて思いきりしかめっ面をして見せた。眉間のシワの深さがすごい。

「おいおいおいおいおいおい。君と僕は恋人同士のはずだろ?それがどうしたって別々に寝なきゃあならないんだよ」
「えっと、あの、うちのベッド狭いので……」
「まさか恋人の家に泊まりに来て何もせずに『じゃあおやすみなさい』なんてすると思ってるのかッ?ガキじゃあないんだぜ、することするに決まってるだろう。それとも何だ?なまえ、君は僕とセックスしたくないって言うのか?」

ずい、とわたしに詰め寄る露伴先生の迫力に、思わずソファの上で後ずさる。露伴先生はそれがまた気に入らなかったのか、ぐいぐいとこちらに向かって詰め寄ってきた。
小さな二人がけのソファではすぐに逃げ場も無くなってしまい、わたしはほとんど露伴先生に覆い被さられる姿となった。

「さぁ、なまえ早く答えろよ。僕とセックスしたいのか、したくないのか、どうなんだ?」
「……し、したい……したいです……」

なんだかすごく恥ずかしくてもじもじとそう答えれば、露伴先生は満足そうにニヤリと笑った。たぶん、今「勝った」とか思ってる。わたしの恥ずかしさと引き換えに、どうやら機嫌は直ったらしい。

「そうか。君が同じ気持ちでうれしいぜ」

ニヤニヤ笑う露伴先生は本当に意地悪だ。今度はわたしがむうっとしてみても、露伴先生はケロリとした様子でソファから立ち上がった。

「それじゃあ早速その狭いというベッドを一度見ておこう。どれ程狭いのか見ものじゃあないか」
「……ほんとに、狭いですよ」

のろのろと立ち上がって露伴先生を寝室に案内する。露伴先生とお付き合いしてしばらく経つけれど、いつもわたしが露伴先生の家に行くばかりだから自分の寝室に露伴先生を招き入れるのは初めてだ。
露伴先生の豪邸の大きな部屋やベッドと比べられると思うと、少し恥ずかしい。

「ここです」

ガチャ、と音を立てて扉を開いて部屋の中のライトをつければ、女性の一人暮らしの生活相応の狭さの寝室とベッドが露伴先生の目の前に広がる。
てっきりこの部屋の狭さに大笑いして馬鹿にするのかと思ったら、意外にも露伴先生は黙り込んでしまった。

「……露伴先生?」
「ここが君がの寝室か」
「? はい」
「ふぅん……確かに狭いが、なかなか良いじゃあないか」

露伴先生の顔を見上げれば、少しだけ頬を赤くした露伴先生がわたしの寝室のベッドを見つめていた。
その表情はさっきまでの意地悪なものとは違っているのだが、わたしの視線に気がついた露伴先生はすぐにいつもの表情に戻ってしまった。

「ま、このベッドの狭さを実際に体感するのはもう少し後にするとしよう。……そうだ、なまえ。焼けた家を直す時、ついでに君の部屋を作ってもいいかなと思ってるんだが……」

スタスタとソファへと戻っていく露伴先生は少し早口にそう言った。慌てて後ろを追いかけると、後ろから見える露伴先生の耳が少し赤くて、わたしはたまらず露伴先生に抱き付いたのだった。