建人さんがあの学生の子に呼ばれていたあだ名はなんだったっけ。テレビをぼんやりと見ていたらふとそんなことが頭に浮かんだ。その疑問の答えを、わたしの隣に座る建人さんの整った横顔を眺めながら考える。
それにしても、サングラスも何もつけていない建人さんの顔はかっこよさが五割増し位になってる気がする。本読んでるし、今ほっぺた触ったら怒るかな。……じゃなくて、あだ名……あぁ、そうだ、たしか……。
「ナナミン」
思い出したあだ名を口にすると、建人さんは眉間にシワを寄せてこちらを向いた。嫌そうな顔もかわいいなぁ、なんて思っていると、手にしていた南の国に移住するだのなんだのという本を閉じてわたしにしっかりと向き直った。
「今、ナナミンと呼びましたか?」
「うん、ダメだった?」
「……理由を聞いても?」
ソファの上でクッションを抱えるわたしは、へらへらとしながら建人さんの質問に答える。頭ごなしに「やめなさい」だとか「駄目です」と突っぱねてしまわないあたり、本当に建人さんは優しい。
「建人さんのあだ名、なんだったかなってふと思って……それで、思い出したから呼んでみただけ」
「なるほど」
「ね、わたしもこれから建人さんのことナナミンって呼ぼうかな」
どう?と建人さんの体にもたれかかって尋ねてみる。建人さんは眉間のシワを深くして、ついに手に持っていた本をローテーブルの上に置いた。
「恋人である貴女の希望はできるだけ聞いてあげたいですが、ハッキリ言って嫌です」
「え〜、なんで?かわいくてわたし好きだなぁ。ナナミン」
「……私はなまえさんの『建人さん』と呼ぶ声が好きなんですよ」
建人さんのごつごつした大きな手が、わたしの腰を抱き寄せる。珍しく甘ったるい空気を出す建人さんに、なんだかものすごく照れてしまう。
名前を呼ぶ声が好き、なんて言われたらもう何も言えなくて、わたしはもじもじと腰に添えられた建人さんの手を見つめていた。
「それに、こういう雰囲気の時にナナミンなどと呼ばれては正直萎えます」
「こういう雰囲気って、あの、もしかして……」
「なんですか?」
えっちなことしようとしてますか?と聞こうとしたその瞬間、テレビの電源がプツリと消されて腰にあった手がするすると太ももに滑っていく。言葉に詰まったわたしの顔を覗き込んで、建人さんはフッと笑ってみせた。
「……では一度、試してみましょう」
「えっ?」
「意外と気にいるかもしれませんし。なまえさん、どうぞ好きなだけナナミンと」
いつもと変わらない表情でわたしをソファに押し倒した建人さんは、わたしの抱えていたクッションをポイと放り投げてわたしを見下ろした。
わたしから視線を外さないままシャツのボタンを外していくその姿はとてもかっこよくて胸がドキドキする。
というか、やっぱりえっちなことをしようとしてる!
「なな、んっ、ふぅ……」
好きなだけ、と言ったくせに、建人さんはわたしが口を開くと同時に唇を重ねて舌を押し込んできた。思う存分ナナミンと呼んでやろうと思ったのに、建人さんは呼ばせる気など全く無いらしい。
結局わたしは甘えた声で鳴くことと「建人さん」と呼ぶことしか許されず、ソファの上で愛されてどろどろにされてしまうのだった。