こちらのお話はフォロワーさんに頂いたワードパレット『耳たぶ 観覧車 咲く』を使って書いたお話になります。
シュートシティにある観覧車に乗ってみたい、とかわいいなまえに言われたオレさまは二つ返事でそれを快諾した。
シルバーのモンスターボール型のゴンドラがくるくると回る、あの観覧車に最後に乗ったのはどれくらい前だろう。ガキの頃に初めて乗ったときのことは覚えてるのに、その後に何回か乗ったことはぼんやりとしか思い出せない。
なまえの小さな歩幅に合わせてゆっくりゆっくりと歩きながら、橋の向こうに見える観覧車を眺めてそんなことを考える。きっと今乗ると夜景がものすごく綺麗に見えるんだろう。
SNS映え間違いなしだ。夜景と観覧車とかわいいなまえとかっこいいオレさま……間違いない、これはバズる。
隣を歩くなまえは観覧車がよほど楽しみなのか、足取りがヒバニーのように少しぴょんぴょん弾んでいた。うーん、かわいい。
「近くで見るとおっきいねぇ」
「ダイマックスポケモンよりでっかいもんなぁ」
そんな他愛のない会話をしていると、あっという間に観覧車の乗り場に到着した。チケットを購入して、案内されるままにゴンドラに乗り込む。どうやら今日は空いているらしく、並ばずに乗ることができた。
「いてっ」
「わ、大丈夫?」
ゴンドラの入り口で頭をぶつけない様にと散々思っていたのに、やっぱりぶつけた。世の中の何もかもがオレさまには小さすぎる。
なまえにかっこわるいとこ見せちゃったな、と苦笑いしながら座席に座ると、係員のオネーサンが扉を閉めながら「いってらっしゃーい」と笑顔でこちらに手を振っていた。
「キバナさん、おでこ痛くない?」
「痛いって言ったらチューしてくれる?」
隣に座るなまえに向かって真顔でそう言えば「しません」と頬を指でつつかれる。
その指があまりにも冷たかったから、オレさまはおでこの事もチューの事も頭の中から吹き飛ばして慌ててその手を両手で掴んだ。
「手!スッゲェ冷えてる!寒かった!?オレさま全然気がつかなかった!ごめん!」
腕を組んで歩いてたから、こんなになまえの手が冷えてるなんて全く気がついてなかった。気がついてたらガッチリ手を繋いでオレさまのコートのポケットの中であっためてたのに。オレさまとしたことが。
「オレさまのマフラーも巻きなよ。ホラ、こっち向いて」
「んぶ、でも、キバナさんが……」
「オレさまはいーの」
自分のマフラーを外して、なまえのかわいいふわふわのマフラーの上から更にぐるぐるとオレさまのものを巻いてやる。あぁもう、小さな鼻の頭も、柔らかい耳たぶも全部冷たくなってる。
「後でカフェであったかいヤツ飲もうな」
「ふっ、ふふ」
オレさまが真剣にそう言うと、なまえは吹き出してくすくすと笑い始めた。今なんか笑うところあったか?とオレさまが目を丸くしていると、肩を震わせたまま「ごめんね」となまえはオレさまを見た。
「キバナさん、観覧車に乗ってるのに景色じゃなくてわたしのことばっかり」
「あ」
そう言われてみればそうだ。ゴンドラに乗り込んでから、一度も外を見ていない。乗る前は夜景が綺麗なんだろうだとかバズるだとか考えていたのに、すっかり忘れていた。
「……オレさま、やっぱりなまえにベタ惚れなんだよなぁ〜……」
「えっ、急にどうしたの」
「なまえの事になると周りが見えなくなっちゃうってこと」
温かくなり始めたなまえの小さな手をぎゅっときつく握って、綺麗にリップが塗られた唇にキスをする。ちゅっと音を立ててすぐに唇を離すと、寒さで白くなっていた頬がまるで花が咲く様に赤くなっていった。
「……フフッ、かわい」
「キ、キバナさん、あっちの、ゴンドラの人に、み、見られて……」
「んー、もっとすごいの見せてあげる?」
首を傾げてそう聞いてみれば、凄い勢いでぶるぶると首を横に振られてしまった。冗談なのに。
今度はオレさまがくすくすと笑い、外を見ればいつの間にかゴンドラはもう地上へ向かって下降していた。本当に全く景色を見なかったな、と少し反省したオレさまはすっかり熱くなったなまえの手をきちんと繋ぎ直してその顔を見る。
「もう一周付き合って欲しいんだけど、いい?」
「……いいよ」
照れた顔をオレさまのマフラーに埋めたままのなまえを見て、つい頬が緩む。次はちゃんと景色もなまえもどっちも楽しんで、写真も撮らなきゃな。
地上へ到着したオレさまたちは、係員のオネーサンに再び「いってらっしゃーい」と笑顔で手を振られながら、ゴンドラに揺られて空へと登っていったのだった。