あのヒバニー耳が生えた後、わたしはポケモン研究所や病院でたくさんの検査を受け、ダンデさんとキバナさんはあのお酒の摘発やなんとか団についてで慌ただしい日々を送っていた。幸いわたしの体に異常はなく、なんとか団についても解決したそうだ。
そしてすっかり元の日常に戻った本日、ガラルの一大イベントであるジムチャレンジの開会式が行われようとしていた。
スタジアム内のトイレの鏡の前で、わたしは服装におかしいところは無いかしっかりチェックする。
ファスナーはきちんと上まで上げてあるし、大事なリボンは今日もホイッスルと一緒に結んである。帽子もサングラスもよし。仕事用のスマホも充電オーケー、完璧だ。
緊張や興奮で胸を膨らませたジムチャレンジャーをしっかりサポートするのがわたし、リーグスタッフの役目である。
そしてこのジムチャレンジャーの中に、ダンデさんに勝つ人物が居るかもしれないのだ。そう思うと、わたしまで胸がドキドキしてしまう。更に、今回はダンデさんの弟さんもジムチャレンジに参加しているそうで、とても楽しみだ。
身だしなみの確認を終えてトイレを出ると、ちょうど先輩に鉢合わせた。先輩には少し前からわたしを見るときに目を泳がせるようになった気がするのだが、わたしの気のせいだろうか。

「先輩、おつかれさまです!今からルリナさんをコートへ案内してきますね」
「あっ、その事なんだが、ルリナさんにはお伝えする事があるから俺が行くよ。代わりになまえはキバナさんの案内を頼む!」
「へ?キバナさんですか?」
「よろしくな!」

にこにこと笑顔の先輩にそう指示されて、わたしは「はい」と頷いた。ルリナさんに伝言ならわたしが伝えてもいいのでは……と一瞬考えたが、わたしには任せられない重要な話なのかもしれない。
そうと思い直して、わたしはキバナさんの控え室へと歩き始めた。歩き出したところで、また先輩に背後から呼び止められる。慌てて振り向くと、少し離れたところで立ち止まったままの先輩が相変わらず笑顔でわたしにむかって叫んでいた。

「なまえ、今日開会式終わったらあがっていいからな!」
「えっ、でも片付けとかは……」
「俺がやるからいいよ! じゃあ、また後でな!」
「は、はい!」

先輩がそう言うなら、と頷いて、今度こそわたしはキバナさんの元へと向かった。今日はまだスタジアムでキバナさんに会っていないし、会えるのがちょっと楽しみだ。ダンデさんにも会えたらいいなぁ。
少しわくわくしながら歩いていると、すぐにキバナさんの控え室に到着した。一度深呼吸して、ドアを軽くノックする。

「キバナさん、コートまでご案内いたします」

そう声をかけると、すぐにドアが開いてにこにこ顔のキバナさんが顔を出した。今日も相変わらずものすごくかっこいい。

「すぐに行けますか?」
「んー、ちょっとだけ待ってくれる?」
「えっ?」

ぐい、と腕を引かれて控室の中へと引っ張り込まれる。突然のことにわたしが目を白黒させていると、キバナさんはドアに手をついて腰を屈め、わたしの唇にちゅっとキスを落とした。そして名残惜しそうにぺろりと唇を舐め、すぐに離れていく。

「……今日もかわいいな、なまえ。開会式でもかっこいいオレさまの姿、よーく見といてくれよ」
「ひゃわ……わ、わかりました……」
「続きは後でな。……よし、そんじゃコート行くか」

このままえっちなことをされるのかと思ってしまっていたわたしは、赤い顔をあまり見られないようにすぐにドアを開いて部屋を出た。なんだかどんどん体も思考もえっちになってきている気がする。気をつけなくては……。



 ♡   ♡   ♡



最高の開会式はあっという間に終わってしまった。ローズさんのスピーチも、ジムリーダーの皆さんのかっこいい姿も、初々しいジムチャレンジャーたちの晴れ姿も、どれも本当に素晴らしかった。
何人かのジムチャレンジャーと話す機会があったが、特にマサルくんとユウリちゃん、ダンデさんの弟のホップくんが何度も話しかけてくれてとてもかわいかった。きっと三人ともファイナルトーナメントまで勝ち進むだろう。これからが楽しみだ。
そんなことを考えながらスタジアムを歩いていると、正面からダンデさんが歩いてくるのが見えた。

「ダンデさん、おつかれさまです」
「あぁ、キミもな。そうだ、今日はこの後何時まで仕事なんだ?」
「それが、先輩が今日はもうあがっていいと言ってくれて……後は着替えて帰るだけです」
「そうか!それはよかった」

にかっと笑ったダンデさんは、わたしに一枚のカードを手渡すとその手でそのままわたしの胸元に結ばれているリボンを撫でた。誰かに見られたらどうしよう、とソワソワするわたしをよそにダンデさんはわたしの耳元で一言「待ってるぜ、なまえ」と囁いたのだった。

「それじゃあ、またな!」
「は、はい……」

うるさく鼓動する心臓を落ち着かせようと大きく深呼吸して、手の中のカードを見る。それはホテル・スボミーインのスイートルームのカードキーだった。これが意味することを、今のわたしはもうわかりきっている。
わたしは少しだけ焦げ跡の付いた帽子を深く被り直し、早くも熱く火照り始めた体でスタッフ用の控え室へと急いだ。わたしの大好きな恋人が、二人ともホテルで待っててくれるはずだ。