「ヒッ……ヒャーーーーッ!!」
「うおっ」
わたしの叫び声が室内に響き渡り、隣に座っていたキバナさんがびくっと体を跳ねさせた。しかし今のわたしには隣のキバナさんを気遣う余裕など皆無であり、ヒイヒイと呼吸もままならない状態で手の中のスマホロトムを握り締めた。
「か、か、かっこよすぎる……なにこの顔……」
今わたしはキバナさんの出演するMVを観ていたのだが、そのあまりのかっこよさに動悸息切れ手足の震えを起こしている。
かなりたくさんの人たちが出演している為、キバナさんの出演時間はそんなに長くない。それでもキバナさんのかっこよさを視聴者に知らしめるには十分すぎた。
こんなにかっこいい人間がこの世に存在するのだろうか……。……してる……横に……。無理……。
「そんなにそのオレさまかっこいい?」
「ひえっ」
「え?」
ぐっとわたしに顔を寄せてスマホを覗き込むキバナさんに、思わず再び悲鳴をあげる。普段近くに居すぎてすっかり麻痺していたが、改めて意識すると隣に居るキバナさんはまごうことなき美男子だ。
さっきMVでかっこよさを全開にしていた人物がすぐ隣に居て、しかもわたしの腰を抱き寄せている。その事実に突然脳が限界を告げ、わたしは即座にソファの端へ移動した。いや、逃げたと言った方が正しいかもしれない。
なんでわたしはこんなかっこいい顔の人と今まで平気でイチャイチャできてたのだろう、と自問自答してクッションに顔を埋める。むり。むりすぎる。
「なぁ、なまえ。どうしたんだ?」
「だ、だめ!こっちこないで!」
「え」
明らかにショックを受けたトーンの「え」が聞こえたが、今は本当にだめなのだ。キバナさんのかっこよさを再認識してしまって顔が見られない。
今キバナさんに触られたら、全身がぐにゃぐにゃに溶けてメタモンになってしまうかもしれない。
「キバナさんが、かっこよすぎて、むりです」
「確かにオレさまはめちゃくちゃかっこいいけど、今までは平気だっただろ?」
「今はむりなの!」
クッションで顔を隠したままそう言うと、キバナさんは黙ってしまった。怒らせてしまったかな、と不安になるが、むりなものはむりなのだ。
全身汗びっしょりで動悸も息切れもちっともおさまらない。キバナさんがかっこよすぎるのがいけない。
「じゃあ顔見なくていいから抱きしめさせて」
「ピャッ」
「フフッ、ポケモンみたいな声だな」
わたしの顔の前にクッションを挟んだまま、キバナさんはぎゅーっとわたしのことを抱きしめた。
あの顔面の人物がわたしのことを抱きしめていると思うと失神してしまいそうだが、顔が見えなければ確かにどうにか我慢できそうだ。
「顔見ないままでも、こうしてなまえを抱きしめさせてくれるならオレさま幸せだぜ」
「うぅ……キバナさん……」
「なんて言えるか!さっさとキバナさまのこのめちゃくちゃかっこいい顔に慣れろ!そんでなまえのかわいい顔も見せろ!」
「ぎゃっ」
べりっと無理やりクッションを剥がされて、大きな両手でわたしの顔を包み込まれる。むりやり近づいてくるキバナさんの顔は本当にめちゃくちゃかっこよくて、更にめちゃくちゃいじわるな表情をしていた。
「あわわわわわわ」
「おっ、かわいい顔」
ニヤニヤと笑ったキバナさんはあろう事か顔をどんどん近づけてくる。
あっ、やばい、ほんとにかっこよすぎて死にそう。そう思ったときにはすでにちゅっと音を立ててキスをされていて、わたしは本当に脳が破裂するかと思った。放心状態になったわたしの唇をぺろりと舐め、キバナさんはまたニィっと笑う。
「慣れたって言うまでずーっとチューするからな」
「えっ?そんなの、む、んんっ」
むり、と言いかけた唇はキバナさんによって塞がれてしまい、わたしはこの後、本当に色々と限界を迎えることとなる。