目の前にずらりと並ぶキバナさんグッズの山に、わたしは目をぱちくりとさせていた。すごい、すごい量だ。
キバナさんはダンボールの中から次々にタオルだとかキーホルダーだとかを机に並べていく。ソファに座るわたしはそれを眺めながら、ひたすらぽかんと口を開けていた。
「今度リーグから出るオレさまのグッズ、どれもけっこう良い出来だろ?」
そう話しながらもまだまだダンボールからグッズが出てくる。こんなにたくさん一気に出されては、ファンはうれしいながらも散財必須なのでは……?もちろん、そのファンにわたしも含まれているのだけれど。
これも、これも買おう、と心の中で密かに決めていると、キバナさんが「これで終わり」と最後にぬいぐるみをわたしに投げてよこした。
それを慌ててキャッチすると、そのぬいぐるみのかわいさにわたしは言葉を失ってしまった。
か、か、かわいすぎる……!
「こ、これ、キ……!?」
「オレさまのぬいぐるみ。かわいいよな」
「か……っわいい!すごい!」
手の中のぬいぐるみはキバナさんをかわいくデフォルメしていて、ころころと丸いフォルムにわたしは一気にメロメロになっていた。本物のすらりとしたキバナさんとは違う、二頭身のその姿の愛くるしさといったらない。
大きな頭に短い手足、ふにゃりと垂れた目にヌメラみたいにかわいい口。キバナさんのかわいいを詰め込んだみたいなぬいぐるみだ。ポケモンたちのぬいぐるみは数え切れないほど目にしてきたが、ジムリーダーもぬいぐるみになるとは知らなかった。このぬいぐるみを企画してくれた人、ありがとうございます!
すっかりぬいぐるみに夢中になっていたわたしの隣に、キバナさんがどかりと座る。そしてわたしが抱きしめていたぬいぐるみをつついて、くすくすと笑った。
「なまえ、そんなに気に入った?」
「うん!すごく!絶対買う!」
「買わなくてもそれあげるぞ〜?」
「えっ、ほんとに?」
キラキラと目を輝かせてキバナさんを見ると、キバナさんはわたしの手からぬいぐるみをするりと抜き取って席を立った。
「ちょっと待ってろ」と言ってどこかへ行ってしまったキバナさんを不思議に思いながらも待っていると、キバナさんはすぐにぬいぐるみを持ってわたしの隣に戻ってきた。
「ほらよ、オレさまがいつもしてる香水コイツにもつけてきた。これでキバナさまっぽさが増しただろ?」
ぬいぐるみを受け取ると、確かにふわりとキバナさんの香りがするようになっていた。見た目はかわいいぬいぐるみなのに香りが本人と一緒で、なんだかものすごくドキドキするようになってしまった。
「かわいいぬいぐるみがえっちになっちゃった……」
「えっち?」
つい思ったことをそのまま口にすると、キバナさんが驚いたような顔をしてこちらを見ていた。しまった。口が滑った。
「えっと、あの、キバナさんの香りがするから、つい……」
「ふーん、なまえちゃんはオレさまの匂いがえっちだと思ってんだ?」
「あっ、いや、その……」
「なんでそんな風に思うのか、オレさまに教えてくれる?」
じりじりと顔を寄せられ、反射的に逃げるとそのままソファに押し倒される。わたしの事を見下ろしながら、キバナさんはニヤリと笑った。
そんな事、聞かなくてもわかってるくせに。
「……いじわる」
「フフッ、かわい」
ぬいぐるみとはまるで違ういじわるな顔が迫ってきて、わたしの唇に噛み付いた。大きな舌がぬるぬる動き回って、わたしは手の中のぬいぐるみを思わず握りしめかける。大事なぬいぐるみを押しつぶすわけにもいかず、そっとぬいぐるみから手を離してキバナさんの背中に腕を回した。
「っは、ぁ♡キバナさん……♡」
「なまえ……セックス、する?」
「……する……」
わたしの返答にキバナさんは満足そうに笑うと、ソファに転がるぬいぐるみを自分のパーカーのポケットへと押し込んだ。
不思議そうにしているわたしに気がつくと、キバナさんは「自分のぬいぐるみとセックス中に目が合ったらチンコ萎えそう」と真顔で答えるものだからつい吹き出してしまった。
かわいいぬいぐるみキバナさんには申し訳ないけれど、少しだけポケットで我慢してもらいたい。再びわたしに覆いかぶったキバナさんの大きな背中に触れながら、わたしはゆっくり目を閉じた。