「また負けちゃったよ〜!」
えーん、と泣きながらキバナさんの体に抱きつくと、キバナさんは大きな手で優しくわたしの頭を撫でてくれた。家に帰るなりソファの上のキバナさんにしがみついて、わたしはぐずぐずと弱音を吐いていた。
もはや何連敗かも覚えていないくらい、わたしはポケモンバトルで負け続けている。リーグ主催のランクマッチとかいうものを始めてみたものの、とにかくわたしは負けまくっていた。
ガラルにあんなに強いトレーナーがたくさん居たなんて知らなかった。ダンデさんもマサルくんもユウリちゃんも、そして大好きなキバナさんもやっぱりすごい人たちだ。負けっぱなしで大事なポケモン達にも申し訳なくてたまらない。
「よしよし、悔しいよな〜。その気持ちわかるぜ」
「わたし、バトルの才能ないのかも……」
「そんな事ないと思うぜ。なまえは才能あるって。ほら、ナックルジムのジムリーダー、キバナさまの目が信じらんねぇの?」
ぐい、と片手で顔を上げさせられ、空の色をした瞳とばちりと視線がぶつかり合う。ふにゃりと垂れた目は優しくて、わたしは気がつけば「信じる」と無意識に呟いていた。
わたしの返事を聞いたキバナさんはにこーっと笑うと、スマホロトムを呼び寄せてわたしのほっぺたをむにっと摘んだ。
「フフッ、負けた時はその気持ちを忘れないように自撮りだ!ロトム、頼んだぜ」
「ロト!」
部屋のどこかに居たらしい元気いっぱいのロトムが目の前に飛んでくる。悪戯っぽい顔で笑うロトムはわたしたちの前にふわふわと漂い、写真を撮る角度を決めている様だった。
すると、キバナさんはわたしの顔にその綺麗な顔を寄せ、ロトムに「撮ってくれ」と声をかける。
「撮るロト〜」
かわいいロトムの声と共にカシャ、とシャッター音が鳴る。それと同時にほっぺたに柔らかいものが押し当てられ、わたしはびくりと体を揺らした。それがキバナさんの唇だと気がついた時にはすでに撮影が終わっていて、ロトムがわたしたちに画像を見せていた。
「おー、いい写真」
「な、なんで、ほっぺ……?」
ロトムが撮った写真を見ると、キョトンとしたわたしと、わたしのほっぺたにキスをするキバナさんが写っている。なんだか照れ臭くなっていると、キバナさんは再びわたしの頭を優しく撫で始めた。
「しょんぼりしてるなまえの顔がかわいかったから、なんとなく」
「かわ……」
かわいかった。その言葉に自然と頬が緩んでしまう。負けて悲しくて重く沈んだ気持ちが解けていくようだった。
キバナさんは自分のロトムにわたしのスマホロトムへその写真を共有するよう話している。すぐにピロン、と通知音が鳴り、わたしのスマホに今の写真が送られてきた。
「なまえ、この写真待ち受けにしときなよ。そしたらスマホ見る度に悔しい気持ち思い出して、やる気出るだろ?」
「キバナさんもそうしてるの?」
「オレさまはこないだのハメ撮りを待ち受けにしてるぜ」
「えっ!?」
わたしがカーッと赤面すると、キバナさんは思い切り吹き出した。すぐにからかわれたのだと気がついて、キバナさんの胸に顔を埋める。恥ずかしい。
「っはは、ごめんな。ほら、なまえのロトムがもう今の写真設定してくれたみたいだぜ」
「……からかったお詫びに次のバトルの作戦会議付き合って」
キバナさんの胸に顔を埋めたままもごもごとそう言うと、キバナさんはまたくすくすと笑った。
「もちろん。トップジムリーダー、キバナさまに任せろよ。そんじゃあまずは、今日のなまえの試合データ見せてくれるか?」
「……うん!」
わたしはパッと顔を上げ、いそいそとスマホロトムに今日の試合の録画を再生してもらう。キバナさんはロトムが再生を始まる前にわたしにもう一度キスをして、そっと囁いた。
「次勝てたらこれよりもっとイイ写真、一緒に撮ろうな」
こくん、とわたしが頷くと、キバナさんは一度にこりと笑ってから真面目な表情になり、真剣な眼差しでスマホロトムの画面を見つめていた。
かっこいいなぁ、と見惚れそうになるのをぐっと堪えて、わたしも画面に集中する。次こそ必ず勝てるようにがんばらなくては。
……でも、もっといい写真ってどんなのだろう?