カランコロン、と店内に気持ちのいいベルの音が響くと、下を向いて作業をしていたマスターが顔を上げた。ショーケースの上のマホミルはまだおねむの時間らしく、オレさまのことをちらりとも見ないままうとうとと微睡んでいる。
オープンして間もない時間だからか店内に人はまばらで、いつもの雑然とした話し声や物音は鳴りを潜めている。
店内のコーヒーの香りを思い切り吸い込んでマスターの前へと足を進めると、マスターはにこやかにあいさつをしてくれた。相変わらず穏やかな声だ。
「おはよう、キバナくん。バトルかい?それとも何かご注文かな」
「バトルしたいのは山々なんだけどな、オレさま今から仕事なのよ。ジム行く前に何か飲もうと思って」
「それは残念。それじゃあバトルはまた今度頼むよ。今日は新作があるんだけど、よかったらどうかな」
にこにこと笑ったマスターは楽しそうにその新作とやらの説明を始めた。話を聞くと、新作というのは桃のフラペチーノらしい。
今の季節は桃がとてもおいしいから、と話しながらマスターはすでにそれを用意し始めたようでカチャカチャと手元で音が鳴っている。
「それじゃあそれ、ひとつ」
オレさまがショーケースの上のマホミルを眺めながらそう答えると、マスターは「よろこんで」とミキサーを動かした。マホミルは突然鳴ったミキサーの音にパチリと目を開くと、その音の原因を非難するように見つめていた。
フェアリータイプはオレさまの愛しいドラゴンタイプのポケモンたちにとっての鬼門だが、こうして見るととても愛らしい。かわいいのに強い、なんというか敵わない存在だ。
「おはよ、お姫様」
不機嫌そうなマホミルに話しかけながら真っ白な頬をそっと指で撫でる。するとマホミルは鳴き声をあげながらオレさまの指にすり寄ってきた。
めちゃくちゃかわいい。やっぱりフェアリータイプはドラゴンタイプにこうかばつぐんらしい。
「はい、もう出来るよ」
マスターの声に視線を動かすと、キッチンにいるマホイップがピンク色のフラペチーノの上にクリームをたっぷりと乗せているところだった。そしてその上にハートのクッキーと、マカロン、キラキラの飾りが盛りだくさん。
「おっ、これはバズり間違い無しだな!」
「そうだろう?」
「ロトム、写真よろしく」
オレさまの声に反応したロトムがポケットから飛び出し、すぐに写真を撮る為オレさまの正面に移動する。マスターからフラペチーノの受け取って、オレさまはマホミルに声をかけた。
「かわいいマホミルちゃん、オレさまと一緒に写ってくれるか?」
「んっとり」
マホミルは体を跳ねさせ、オレさまにぴとりとくっつく。フラペチーノがしっかり写るようにポーズをキメると、ロトムがカシャカシャとシャッター音を響かせて何枚か撮影をした。
「サンキュー、ロトム。マホミルもありがとな」
二匹にお礼を告げ、オレさまは太めのストローに口をつけた。桃の果肉がごろごろ入っていて、冷たくてめちゃくちゃうまい。さすがマスターの一押しの新作だ。
「スゲェうまい!後で今の写真SNSに載せて宣伝しとくぜ」
「それは光栄だ。キバナくんに宣伝してもらえるなら今日はもう売り切れ必至だな」
ごくごくと桃を喉に流し込みながらマスターの話を聞いていると、ふと愛しい彼女の顔が頭に浮かぶ。
これ、なまえ絶対好きな味だよなぁ。
そう一度頭に浮かぶと、うれしそうに桃のフラペチーノを飲むかわいいなまえの姿が見たくてたまらなくなってしまった。
「なぁ、マスター。オレさま帰りにこれ二つテイクアウトしたいんだけど、残しといてくんない?」
「あぁ、もちろんいいよ。……なまえちゃんに買って帰るのかい?」
ニヤリと笑ったマスターはロトムと会計をしながらそう言った。何故だかマホミルまでうれしそうに笑っているように見える。
「当たり」
「ふふ、キバナくん、彼女のこと考えてると幸せそうな顔をするからすぐにわかるよ」
「……オレさま、そんなに顔に出てんの?」
「そうだねぇ」
「んっとり!」
「オレさまなまえのことスッゲェ愛してるからなぁ……」
ぴょんぴょん跳ねるマホミルに飾りのクッキーを渡し、自分もマカロンを頬張る。すでに頭の中はなまえでいっぱいになっていた。
すると、突然ロトムが大きな声をあげる。
「あと十分でミーティングの時間ロト!」
「げっ!のんびりしすぎた!それじゃマスター、夕方取りに来るからよろしくな」
「かしこまりました」
「マホミル、またな」
桃のフラペチーノのを片手に慌ててカフェを後にする。カフェやマスターの雰囲気のせいか、つい長居をしてしまった。頭の中を切り替えなくては。
クッキーを頬張るマホミルに手を振り、オレさまはナックルジムへと向かった。今日もいい一日になりそうだ。