夜のとばりがすっかりと落ち、眠るには少し早く何かをするにはもう遅い時間、わたしはオベロンと共に自室へ入った。
部屋に入るなり、はあぁと大きく吐かれた溜め息と、鬱陶しそうに伏せられる視線。深い夜みたいな色の髪がさらりと動き、オベロンは気怠くゆっくりと口を開いた。そんな動作もひどく美しい。さすがは妖精王だ。
「ほんっとにさぁ、こう毎日毎日よくもまぁ俺を部屋に誘うよね。きみは」
「うん、オベロンの事が好きだから」
「あぁそう。それはどうも」
心底どうでもよさそうな声でそう答えたオベロンは、つかつかとわたしの部屋を進み当たり前のようにベッドに腰掛ける。
オベロンの言う通り、ここのところわたしは毎日オベロンを部屋に招いては夜を一緒に過ごしていた。夜を過ごす、と言ってもベッドの中でオベロンと話をして、気がつけばそのまま朝までぐっすり眠っているという、それはそれはものすごく健全な過ごし方である。
大嘘つきのオベロンとの会話は、わたしには何故だか心地よかったのだ。
すらりと長い足を組んでわたしをまっすぐ見るオベロンの表情は読めない。わたしはベッドの前に立ったまま、へらりと笑った。
「オベロンこそ、毎回断らずに来てくれるよね」
「断るのすら面倒くさいだけだけど?」
「ふふ、そっかぁ」
わたしのベッドにごろりと横になったオベロンは嫌悪感を視線に乗せて「一晩中ずっとそうやって立ってるつもり?」とわたしに問いかける。
その質問の意味を都合よく解釈したわたしは、オベロンの隣に寝そべって彼の暖かくも冷たくもない体に寄り添った。オベロンはもぞもぞと身じろぎをすると、わたしの頬に手を当てて視線をがっちりと絡ませる。オベロンの瞳の色は恐ろしいほどに美しい。
「どうしたの?」
「毎晩部屋に俺を呼ぶなんて、きみいい趣味してるよな。反吐が出るよ」
「あのね、オベロンと一緒だとなんだかよく眠れるの」
オベロンの手に頬擦りしてそう答えると、オベロンは目をスッと細めて少しだけわたしの頬に触れる手に力を込めた。
オベロンの言葉には嘘しかない。それは嘘か本当かわからない会話や、真実しかない会話より、わたしにとってはずっと心地いいものだった。
「……なまえはさぁ、俺がこれからもきみを毎晩ゆっくり眠らせてあげるって思ってる?」
「へ?」
すでにうとうとと瞼を閉じかけていたわたしが目を開けば、オベロンはにっこりと胡散臭い笑顔をわたしに向けていた。オベロンの手のひらが頬から離れていき、わたしの体の上を滑っていく。
「えっ、あ、なに?」
わたしの困惑した声を聞いたオベロンがくつくつと喉を鳴らしながら、わたしのお尻を鷲掴みにする。
この行動がわたしをからかっているだけなのか、それとも本気なのか、オベロンの胡散臭いキラキラとした笑顔からは何もわからなかった。
「そうだね。俺は仮にも妖精王であるわけだし、女の子の体を勝手したりはしないさ」
「オベロン……?」
「ほらほらなまえ、安心して目を閉じるといいよー。そうだ、俺が子守唄でも歌ってあげようか?」
「て、手が、あの……」
むにむにとわたしのお尻を揉みしだくオベロンの言葉は、相変わらず紛れもなく嘘ばかりだ。つまりこの後わたしがどうなるのか、それを考えると眠気なんてものはどこかへ吹き飛んで行ってしまった。
「オベロン、怒ってるの?」
オベロンの本心を探るべく、おずおずとそう尋ねてみる。するとオベロンはついにわたしのことをがばりと組み敷いて、急に真顔になった。そうして、じぃっとわたしのことを見つめる。
「いいや。なまえにはそう見えるのかい?」
「うん、ちょっとだけ」
「…………そう」
一瞬、これまでの笑顔と違う笑顔で優しく微笑んだオベロンは、自分のおでことわたしのおでこをくっつける。オベロンの瞳に秘められたその気持ちを感じ取った気がしたその瞬間、柔らかい唇が重ねられた。