わたしには以前から気になっていることがあった。それはマーリンの口の中だ。マーリンは食事もしないし、あくびも、大きな口を開けて笑うことも無い。
キスをすることはあってもこの目できちんと口内を見たことは無いのだ。夢魔でもあるマーリンの口の中は、やはりわたしたちとは違うのだろうか。

「マーリン、あーんして」
「唐突だなぁ」

ちょうど自室へマーリンがひょっこりやって来たので、口の中を見せてもらうことにした。突然の事にマーリンは少し困ったように笑いながらも「マイロードの望みなら」と目を閉じて口を開いてくれた。目は閉じなくてもいいのだが、餌をねだる雛鳥のようで少しかわいい。
大きく口を開くマーリンを見るのは初めてで、なんだかソワソワしてしまう。マーリン口の中は歯がきちんとお行儀良く並んでいて、赤い舌はてらてらと妖しく光っていた。作り物みたいに綺麗なこと以外は至って普通である。

「口の中、普通だね」
「ふふ、もう閉じてもいいのかな?どんなのだと思っていたんだい」

にこやかに微笑むマーリンは、ベッドに座るわたしにぴとりと身を寄せるとそう問いかけた。膝の上に置いていたわたしの手をマーリンがゆるゆると撫でている。優しいその触れ方はとても心地良くてわたしはされるがままになっていた。

「夢魔だし、ええと……舌が長かったり、牙が生えてたりしないかなぁって」
「この口で物理的に人間を食べるわけでは無いからね。がっかりさせてごめんよ」
「ううん、がっかりしたわけじゃなくて、知りたかっただけだから」

ただの興味だったのだから、別にがっかりした訳ではない。その旨をマーリンに伝えれば、マーリンはわたしの目を見てぴたりと手を動かすのを止めた。

「知的探究心を持つことはとても良いことだね。そうだな……少し、試してみようか」
「え?試す?」

わたしが首を傾げると、マーリンはぎゅうっと強くわたしの手を握った。ついそちらに目を向けると、マーリンがすぐに穏やかな声でわたしを呼ぶ。その声に導かれて顔をあげれば、そこには再び口を開くマーリンの姿があった。
その口の中にはさっきまでは無かったはずの、二本の尖った牙がきらりと光っていた。

「なっ……マ、えっ!?」
「どうだい?これはなまえのイメージ通りだったかな?」

イメージ通りもなにも、あまりのかっこよさに心臓が爆発しそうだった。端正な顔に牙がくっついているだけでこうも破壊力を増すのか。まるでドラキュラのようだ。いや、夢魔なんだけど。
ばくばくうるさい心臓の音がマーリンに聞こえないか心配しかけて、この感情の動きは全てマーリンに筒抜けなことに気がついた。
恥ずかしさから一気に顔が熱くなる。現に目の前の夢魔はニンマリと口角を上げているのだ。

「本当にキミは私の事が好きだなぁ」
「なに、なにが……?」
「ただ歯の形を二本変えてみただけでこんなに感情が揺れ動くとは思わなかった」

上機嫌なマーリンはわたしの手を自分の方へと引き寄せて、顔をわたしの目の前に寄せる。近くで見ると、改めてあまりのかっこよさに頭がくらくらする。

「そんなに気に入ったのならしばらくこのままでいよう」
「えっ!?」
「なぁに、私は食事も必要ないし呪文は元々噛むからね。何も問題はないだろう?」

しばらくこのまま。それは困る。大いに困る。ただでさえ普段からかっこよくてドキドキしてしまうのに、心臓がもたない。

「ふふ、このまま色々試してみるかい?」
「い、いろいろ……」
「そう。色々だよ」

唇がくっつきそうな位近くに顔を寄せて、マーリンはゆっくりとそう囁いた。マーリンの綺麗な指がわたしの制服の首元をゆるめ、髪をどける。ぬるりとした舌の感触に肩を揺らすと、尖った牙が首筋に突き立てられた。
そのじくりとした痛みに子宮がきゅうっとする。やばい、どうしよう、と思うと同時に、マーリンはわたしをベッドへと押し倒したのだった。