わたしはマキマさんのことが大好きだ。マキマさんがわたしのことをどう思っているかはわからないけれど、多少は気に入ってくれたり役に立つと思ってくれているはずだ。
その証拠に書類仕事中の今もわたしを隣においてくれている。以前お手伝いしましょうか、と聞いたことがあるのだが「何もしなくていいよ」と断られてしまった。マキマさんが望まないのならば、とわたしは今日もお仕事をするマキマさんの隣にただただちょこんと座っている。
少し動くだけでパイプ椅子がぎいぎい鳴るので、身動きをできるだけとらないようにしてマキマさんを眺めていた。書類に目を走らせるマキマさんの長い睫毛に見惚れていると、不思議な色の瞳がちらりとこちらを見た。瞳の中は暗く深くて、吸い込まれそうだった。

「そんなに見られると照れちゃうな」
「す、すいません。わたし、マキマさんが大好きで……」
「へぇ、そうなの」

もう何十回、何百回目かわからないマキマさんへの愛を吐く。マキマさんはわたしが何度愛の言葉を吐き出そうと、飽きることなく聞いてくれる。優しい。好き。

「大好きなマキマさんの言うことは何でもききます」
「うん、そうだね」
「大好きなマキマさんの為ならいつでも死にます。今すぐにでも」
「そう。でもね、なまえちゃん。死んだらこういうこと、もう出来なくなっちゃうよ」
「こういうこと?」

にこ、と唇だけで微笑んだマキマさんはわたしのシャツのボタンを片手で外していく。ひとつ、ふたつ、みっつ。
シャツの首元を大きく開いて、マキマさんはがぶりとわたしの首に噛み付いた。思わず体をびくりと揺らすと、パイプ椅子が耳障りな悲鳴をあげる。
甘い痛みが首から全身に広がって、甘ったるい吐息が漏れてしまう。それを聞いたマキマさんは、ぺろりと噛み跡を舐めて離れていった。

「こういうこと」
「し、しにま、せん」
「死なない?」
「マキマさんが死ねって言わない限り、絶対死にません」
「なまえちゃんはいいこだね」

よしよし、と頭を撫でてもらえて、わたしはうっとりと目を閉じた。マキマさんに仕え、使われることはこの上ない幸せなことだ。

「それじゃあいいこにはご褒美をあげなきゃね」
「ご、ごほうび」
「うん。少し休憩がてら相手してあげる。おいで」

床を蹴って、マキマさんが机と自分の体の間に広く空間を開けた。マキマさんを乗せたキャスター付きの椅子がするする床を滑って、マキマさんの背後の壁にこつん、と当たる。
わたしはごくりと喉を鳴らして、マキマさんの足下へと座った。下から見上げるマキマさんは特に美しい。下から見上げる顔が美しいなんて、本当に整った顔でないと有り得ない事だ。まごうことなき女神。

「ふふ、膝の上でよかったのに」
「え?あ!すいません……」
「いいよ。なまえちゃんがそっちの方がいいなら、そうしようか」
「はひ……」

マキマさんが長い足をゆらりと揺らめかせると、ぴかぴかの靴が目の前に近づいてくる。靴のつま先で顎をくい、と上げられれば、マキマさんとばちりと目が合った。
心臓がドキドキうるさい。これからされることへの期待で、脳みそがどうにかなりそうだ。

「かわいいね」

にこ、とゆるく微笑んだマキマさんのつま先が、するすると下に降りていく。浅ましい期待でいっぱいになっているわたしがのろのろと足を開くと、マキマさんが小さく笑う声が聞こえた。
先程噛まれた首元が、ちりちり痛む。あぁ、マキマさんに飼われて本当によかった。