「うぎゃ」
「おっと」
曲がり角を曲がったら、思いっきり誰かにぶつかってしまった。歩き慣れているカルデアでこんな事が起きるなんて情けない。自分の注意力の無さに落ち込みながらも、じんじんと響くお尻の痛みに涙がにじむ。
相手の体幹が強いからか、わたしは完全に跳ね飛ばされてどしりと尻餅をついてしまったのだ。
「悪かったなぁ。ちょいと考え事をしていた。マスター、立てるか?」
降ってきた声に思わず肩が跳ねる。ぶつかった相手は、吉法師だった。ニカッと気持ちのいい笑顔でわたしの腕を掴むと、軽々と引き上げてくれる。
いつものノッブよりもたくましいその腕に、わたしはドキドキしてなんとなく視線を泳がせていた。
「ありがとう、ノッブ」
「わっはっは、俺の事は吉法師と呼んでくれ、マスター。ここには俺がたくさん居るからなぁ、ややこしいだろう?」
「あっ、ごめんね」
吉法師の声のせいだろうか、つい口が自然と「ノッブ」と呼んでしまったのだ。慌てて謝ると吉法師はニィっと口の端を吊り上げて、指でわたしの唇をなぞってみせる。
突然のその行動に、一気に顔が熱くなる。いつものノッブとは違う、ごつごつとした指なのに、触れ方はまるで同じなのだ。下唇の輪郭を、指先で優しくくすぐるようになぞっている。
「さぁ、なまえ。この愛らしい唇で吉法師と呼んでみてくれ」
声が、同じなのに違う。吉法師の声が頭にぐわんと響いて思考がまとまらない。息の仕方がわからなくなってしまったように、呼吸もままならなくなってしまった。
はくはくと口を動かすばかりのわたしに、吉法師はくつくつと喉を鳴らして笑った。
「なんだ、声の出し方を忘れたのか?それなら俺が、思い出させてやろう」
「……っ」
つつ、と指が唇から頬をなぞって、首筋まで下りてくる。服の首元を引っ張られて、本当に息が止まってしまう。このまま身を任せていたら、一体どうなってしまうのだろう。
吉法師、と名前を呼ぼうと、口を開くと、どこからか聞き慣れたいつものノッブの声が響き渡った。
「随分と楽しそうな事をしておるのう、わし!」
「おう、アーチャーの俺!」
わたしの背後に居るらしいノッブの方へと吉法師が視線を送る。そしてわたしに触れていた手を離すと、耳元で小さく「続きはまた今度だ、なまえ」と囁いてわたしの横を通り過ぎていった。
へなへなと力が抜けて再び廊下へ尻餅をついたわたしを、二人がおもしろそうに見つめている。ノッブと吉法師がかつかつと足音を鳴らしながらこちらへ近づいてくるその光景に、脳がどうにかなりそうだった。だめだ、本当にもう、身がもたない。